「―――――…」

降りしきる雨の中、僕は彼と出会った。













とりあえず家まで連れて帰ったは良いが、どうすればいいのか解らない。とりあえず以前仲良くさせてもらっていた森さんに連絡を取って、猫専用のミルクと、一応子猫用の缶詰を用意する事を薦められたので、その子をタオルでくるんで部屋に暖房を付けて暖かくして家を出て、急いで近くのペットショップに走った。
本当なら動物を持ち込むなんて禁止されているし、それにこんなに一生懸命にならなけばいけない理由も無い。
でも、なんとなく。

雨に打たれて震えながらも、誰にも助けを求めようとしなかったから、かえって放っておけなかったのだ。

部屋が暖かくなって少しは元気を取り戻したのだろう。ペットショップから帰ってくる頃には逃げ出そうとする気配すらあった。良かった、そのくらい元気があるなら大丈夫だろう。
まだ小さな子猫なので、皿から飲めないかもしれない。そう思って猫用の哺乳瓶を買って来たのも正解だったらしい。作ったミルクも全部飲み干して、言われた通りに軽く背中を叩くとゲップをした。
そのまま暴れるかと思ったのだが、そんな事も無く、お腹いっぱいになったせいなのか、子猫はそのまま寝た。
そして、僕もつい、誘われるように寝てしまった。だからといって、流石にその所為ではないと…信じたい。

「なーぅ」

小さな声がした。猫の声なのかと思ったのだが、それにしては少々低いし、声が大きいとも思う。
目を閉じたまま考えていると、ずし、と胸に重みがかかった。猫、にしては重たい。

「にー」

講義するような声が聞こえて、べろりと顔を舐められる。またもや、猫にしてはサイズが大きい。
恐る恐る僕は目を開けた。先ほどの猫と同じ色の毛が見えた。

「うなー」

しかし、それは猫なんかじゃなく。

「…こ、ども…?」

僕が呟くと、ぺしぺしと小さな手のひらで頭を叩かれる。ふと見てみれば…全裸じゃないか。というか、何故子どもが此処に?
驚くべきことはそれだけじゃない。その少年には、猫と同じしっぽと耳が生えていた。

「え」

僕が驚いて跳ね起きると、ころん、と少年は転がった。「ふーっ!」っと警戒したように怒られた。

「ご、ごめん…」

そっと手を差し出すと、がぶっ、と噛まれた。痛い。でも耳を伏せて警戒しているようにこちらを睨んでいるので、無理に手を外す事はしない。怯えさせても、仕方が無い。…でも痛いから早く緩めてくれると良いんだけどな。
少しすると大丈夫だと判断したのか、噛み付くのを止めた。強く噛みすぎて皮膚が切れたのか、血が流れるのを見てぺろぺろと舐めてくれる。うん、それは良いんだけど。

「…猫、なのかな、さっきの」
「ねこ?」

きょとん、として少年はこちらを見た。なんだ、啼くだけじゃなくて喋れるのか。…ってそんな場合でもない。よくよく少年を見てみれば。

「っ…!!」

僕のよく知る人にとてもそっくりだった。まさか、こんなことってあるだろうか。確かに子猫を拾った理由の1つに、誰にも助けてもらおうとしない姿が彼に似ている気がした、というのもあるけれど。…妄想の産物とか、夢じゃないのかな。

「…いたっ」

お約束で頬をつねってみるけれど、痛い。えーっと、夢でも、ない。

「いたい?」
「え?あ、うん…っ!?」

つい反射的に頷くと、今度は先ほどつねった頬を舐められた。思わず後ずさりする。

「いたいの、なおるか?」

流石見た目が一緒なだけあって、声も若干幼いとは言えほぼ同じである。混乱してどうしようもないが、とりあえず…

「服だけ、着ようか?」






異様に服が大きいが仕方が無い。とりあえず小さめのTシャツを着せると、むず痒そうにしていた。

「名前は…ない、だろうね」
「なまえ?」

きょとんと子猫(暫定的にそうしておこう。子どもを家に入れた覚えは無いし、猫がいなくなっているのだから)が僕を見返す。捨て猫だから、名前なんてないだろう。

「…僕は、古泉一樹。こ・い・ず・み・い・つ・き。…言える?」
「こいじゅみいつき?」
「うん。…言い難かったら一樹で良いよ」
「いつきっ!」

にぱっ、と子ども特有の笑顔で子猫は笑う。言葉を教えて貰うのが楽しいのだろうか。

「君は…そうだな…」

しばらく考えても、どうしても彼の名前しか浮かんで来ない。そのまま呼ぶのはまずいだろうし…

「キョン、でいいかな?」

問いかけると子猫は嬉しそうに頷いた。

「キョン」
「うん、そうだよ、君は今日からキョン」
「キョンっ」

嬉しそうに何度も名前を繰り返す猫を見ていると、こっちまで嬉しくなる。…そうだ、この現象が一体なんなのか長門さんに聞いてみよう。彼女は色々と物知りだし、生物学も専攻してたはずだ。
電話をかけると、3コールで彼女が出た。中々素早い。

『…もしもし』
「あ、古泉です。長門さんですよね」
『あ、いっちゃんかぁ。思わず外用の対応で出ちゃったよ〜』

…この変わり身の早さには、いつも驚かされる。彼女は心を許した人間以外には、ひたすら冷たい態度を取っている。しかしこうして僕みたいに気を許している相手に対しては、非常にくだけた態度を見せるのだ。

『で、どうしたの、電話なんて。あ、もしかして課題でわかんないこととかあった?』
「いや、そうじゃなくて…その、どう言ったらいいのかな…」

思わず僕もつられてくだけた口調になる。普段は敬語なのだが、彼女が嫌がるためでもある。

「…猫を、拾ったんだけどさ」
『何?遺伝子上に問題でもあった?』
「いやパッと見そんなのわからないから」
『じゃあ何?』

いや、確かに遺伝子上の問題はあるのかもしれないけど、と僕は呟く。こんなこと、言って信じてもらえるだろうか。

「…その猫が、急に猫耳をはやした子どもになったんだよ」
『は?』

一瞬間があく。やっぱり冗談だと思われたんだろうか。

『…ねえその子、つれて来れる?』
「あ、いや…捨て猫だったから、人ごみは怖がるかも」
『じゃあ、帰りいっちゃんの家寄っても良い?』
「もちろん、そうしてくれると助かるけど」
『OK、じゃあ、あとでね!』

心配した僕がバカだったようである。彼女は興味を抱いたようで、声がキラキラとしていた。…あ、そう言えば彼に似てるんだけど、っていうの忘れた。

「なー、いつきー」
「…?」

くい、と服の裾を引っ張られて振り返ると、キョンが不満そうにこっちを見ていた。どうかしたのかな?

「遊べっ!」

満面の笑みで言われてしまえば、長門さんがくるまでの間、大人しく遊び相手になるしかなかった。





























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