ピーンポーン、と音が聞こえて僕はまだじゃれつこうとするキョンを慌てて離し、玄関に向かう。
うなー、とキョンが不満そうな声を上げるが、仕方ない。

「…やあ、いらっしゃい」
「うん、お邪魔するよー」

と、長門さんが入って来たためか、キョンが僕のそばから離れてすみっこまで逃げる。
そんなに怖がらなくても、怖い人じゃないんだけどな。…多分。

「いっちゃん、今失礼なこと考えなかった?」
「いや、別に?」

と、平静を装って答えるけれど…長門さんは時々鋭いから怖い。

「…ねえ、あの子?」
「え、あ…うん」

キョンは威嚇するように耳をピンと立て、長門さんをじっと睨んでいる。
そんな長門さんは何を思ったのか、ずかずかとキョンの前まで進んで行く。そして、その前に勢いよく座ると、じーっとキョンを見た。

「…」
「…」

しばらく沈黙が続く。すると、おずおずとキョンが長門さんに近づく。長門さんはじっとしたままキョンを見ている。

「…いつき」
「ん?」
「…いい人?」
「うん、いい人だよ、怖くないよ」

その言葉に安心したのかキョンは長門さんにべたべたと触っている。長門さんも、もういいと判断したのだろう、キョンをひょい、と抱き上げて、ぎゅ、っと抱きしめる。

「可愛い〜!」
「ぐえ」

…うん、可愛いのはわかるけど、ちょっと手加減してあげてね、苦しそうだから。







「…それにしても、ホントに彼そっくりだねえ」
「そうなんだよ…だからちょっと、困ってて」

ちなみにキョンは現在、長門さんのことがよっぽど気に入ったのか、その膝の上に鎮座している。羨ましいことである。キョンじゃなくて、長門さんが。

「で、彼に似てるからキョンくん?」
「うん、まあ…他に名前が思いつかなくて」
「だからって猫に哺乳綱偶蹄目シカ科ホエジカ属の動物の名前を付けなくても…」

センスないって言いたいんだろうけど、本名をそのままつけるわけにもいかないだろう。
ちなみに彼女には既にキョンを拾ってからのあらかたの事はすべて話している。

「うーん、わたしにもさっぱりだなぁ。サンプルを持って帰って調べない事にはなんとも」

というわけで失礼、と長門さんはキョンの抜け毛を一本と、あと口を開いてもらって唾液をサンプル用のケースに入れる。

「まあ、これで何かがわかるとも限らないけど。いちおう結果がわかるまでは、普通に猫として熱かった方がいいから、あんまり塩分の濃い物とかあげないようにね」
「あ、うん。…このころの猫って、ミルクとかでいいのかな?」
「そうだねえ…まあ、子猫用のミルク買ってあるんだから、それをあげたら良いんじゃない?」

と、長門さんはテーブルの上に視線を滑らせた。うん、彼女がそう言うなら多分間違いはないだろう。

「じゃ、わたしは帰るね。早く解析したいし」
「あ、うん、ありがとう」
「どーいたしまして」

彼女が膝からキョンをおろして立ち上がる。キョンはそんな彼女の服のスソを握って、じっと見上げる。

「…帰る?」
「うん、ごめんね」

彼女は再びしゃがみ込むと、キョンと目を合わせて、その頭を撫でる。

「今日はそんなにゆっくりできないから。…今度くる時は、一緒に遊ぼうね」
「…うん!」
「よしよし、キョンくんはいい子だねえ」

そう言って帰る彼女を玄関先で見送る。ちょっと寂しそうにしながら、キョンは彼女に向かって精一杯手を振っていた。

「…いつき」
「ん?どうしたんだい?」
「なまえ、なに?」
「名前?」

少し考えて、思い当たった。彼女の名前だろうか。

「長門有希、だよ」
「にゃがとゆき?」
「うん。ゆき、で良いと思うよ」

可愛い!って言って気に入ってたくらいだから、多分ゆきと名前で呼ばれた方が喜ぶだろう。

「ゆき」
「うん。今度来たとき、そうやって呼んであげてね」
「うん、におい、覚えた」

そうか、犬じゃないけど猫も嗅覚は発達しているもんだった。

「…さて、じゃあ、時間も時間だし、ご飯にしようか」
「うん!」



まあそんなこんなで長門さんとキョンの初顔合わせが済んだのだけれど、少し困った事がある。
いや、嬉しい事ではあるんだろうけれど…キョンがやたらと、引っ付きたがるようになったのだ。食事中も膝の上に乗り、寝る時も密着常体。そりゃあ、確かに僕には幼児趣味なんてないけど、それでも困る物は困る。



可愛い子猫との生活は、慣れるまでにまだまだ時間がかかりそうです…。
































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