数分後、俺たちは玄関に集合していた。
俺はラフにタンクトップにハーフパンツ、その上に半袖のシャツ。
古泉はTシャツの上にシャツ、スラックスといった出で立ちだ。暑くないか、それ。
「いえ、特には」
「…ホント涼しそうな顔してるよな」
触ったら冷たそうだ、なんて思いながら寮をでる。
外に出た瞬間、夏の熱気が体を被った。
「あっつ…」
「そうですね…どこへ行きましょう?」
「駅前でいいだろ、ファミレスとか」
「そういうところ、久々に行きますよ」
「久々?」
歩き出しながら俺は問いかけた。
「ええ。何せ寮ですし、それに家が家ですから。涼宮さんに何度か連れて行って貰ったきりですよ」
あいつも金持ちの家のくせに、らしいな、と俺は笑いながら呟いた。
「僕は結構好きなんですけどね。家の人はそうもいかないので」
「ふぅん、じゃあ結構ジャンクフードも好きなのか」
ええ、滅多に食べれませんけど、と古泉は頷いた。
「なら変更して、ファーストフードにしとくか。安いし、たまには悪くないだろ」
「でも外食も姫費用から出ますよ?もっと良いところに食べに行っても…」
「いいんだよ、どうせ口に合わん」
やや速足になりながらそう言えば、ありがとうございます、と後ろで笑う気配がした。
「あっつかった…」
「ホントクーラーって偉大ですよね…」
店内に入るなり、二人して息を吐いた。寮からはそう離れていない場所なのだが、それでも汗だくになってしまった。
「…で、何食う?」
「暑いですから、さっぱりしたものが良いですね…これにします」
「飲み物は?」
「お茶で」
OK、と返事を返してレジに向かう。
「あ、払いますよ」
「良いんだよ、どうせ経費で落とすから」
「でも、」
「わかったわかった、じゃあ盆持て」
途端に嬉しそうにする古泉は、まるで母親を手伝う子どものようである。さて、周りはこんな俺らをどう見てるんだろうな。
「そういえば俺も何か久しぶりに食う気がするな」
席に着きながらそう言えば、まあ寮で食事がでますからね、と古泉が頷いた。
「そういえば休みの間はシェフとか居ないが、お前はどうするんだ?」
「え?適当に毎日コンビニで…」
古泉が最後まで言い切る前に俺は机を叩いた。古泉がびくりとする。
「お前な、肌に気を使ってるんじゃなかったのか」
「でも料理なんて出来ませんし…」
「そんなん理由になるか!ちゃんとしたもんを食わなきゃあっと言う間に体型は崩れて肌は荒れ放題になるぞ」
折角綺麗な顔してんのに勿体無い、と俺は古泉を睨んだ。
「俺は結構お前の顔気に入ってるんだぞ」
「…顔だけですか」
「?」
「いえ…あなたって面食いなんですか?」
「顔が綺麗なやつはそれだけで価値があるとわりと本気で思ってるぞ」
そういうと古泉は脱力したように溜め息を吐いた。何か悪いこと言ったか?
「…なんでもないですから、お気になさらずに…」
「そうか?けどホントにそんな食生活はまずいと思うぞ」
「あなたはどうなさるんですか?」
と古泉が最もな質問を返してきた。
「俺は毎日自分で作るぞ。折角良い厨房があるんだから勿体無いだろ」
「…料理好きなんですね…」
俺の目がよっぽどキラキラとしていたのか、古泉は若干呆れ気味に呟いた。
「まあ、好きと言えば好きだな。両親を亡くして叔父夫婦のとこに妹共々世話になってたからな。自分と妹の身の回りの事は自分でやろうって決めてから、色々叔母さんに教えて貰ってたんだよ」
「…すみません」
古泉に謝られてハタと気がついた。そう言えばまだ、この話したことがなかったか。
「気にすんな。良い機会だから話しとく。二人きりでこんな重たい話しても余計暗くなるだけだしな」
反省したように目を伏せる古泉を見て、俺はこれ以上暗くさせまいと笑った。
「別に、叔父さんたちと仲が悪かった訳じゃないんだが、俺はちゃんと事情を解ってたからさ、色々ぎこちなくなっちまったんだよ、色々と」
叔父夫婦に子どもはいなかった。まあまだ若かったしな。その分余計に俺と妹を可愛がってくれた。それは解る。だから、今こんな風に家を出てしまって、申し訳ないと思う気持ちでいっぱいだ。
「でも、やっぱり離れてみなきゃわかんないこととかあるんだよな。それに、家を出たからこそお前らと会えたんだし」
「…叔父さん夫婦の事、好きなんですね」
「ああ、それはもちろんな。本当の親のようには思ってるよ」
俺が即答すると、古泉は微笑んだ。
「一日だけでも、帰ってみますか?」
「え?」
「あなたのお家に、ですよ」
…考えた事も無かったな。帰ったらそのまま夏休みは家に居るべきだと思っていたから、一日だけ、だなんて。
「…そうだな」
だけどその時はお前も一緒が良い。一人置いてくのは可哀想だからな。
俺がそう言うと、古泉は嬉しそうに微笑んだ。
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