夏休みが終わり、新学期が始まったその日、俺たちは早々に生徒会室に呼び出された。
あれから結局変わった事も無くぐだぐだ過ごす日々が続き、夏休みも終わりになるとぞろぞろと生徒たちが戻って来始めたので、別に今更改めて久しぶり、という感じも無いが。

まあそれはさておき、ここの文化祭は生徒達だけで騒ぐ前夜祭を含め、文化祭は金・土・日の三日続くらしい。つまり俺たちは三日間出突っ張りということなのだ。

「じゃ、今回の姫の仕事、説明させてもらうぜ?」

そう言ったハルヒはやたらと楽しそうな笑みを浮かべていた。なんだなんだ、一体どうした?

「いやー、この日のためにオレは色々頑張ってたわけだよ。そのことがやっと発表出来るとか思うとさぁ〜」
「…涼宮、話」

完璧に浮かれているらしいハルヒに、長門が先を続けるよう促す。そうだった、とハルヒは何やらホワイトボードに書き始めた。
そういえば、確かに夏休みの間を含め、何か色々やってたのは知ってるが。

「ま、今回姫に文化祭でやってもらおうと思うのは、前夜祭での盛り上げ役と、文化祭一日目のオリエンテーリングと、二日目の寸劇な。それから一般公開日の二日間は宣伝を兼ねて姫衣装での校内練り歩き」
「ちょ、ちょっとまて!」

俺は思わず立ち上がった。

「それ、どう考えても多く無いか?!」
「だーかーら、こんな早くから練習とかやろうって言ってるんだよ」

しかしそう言ってもだな、体育祭とかはどうするんだ。

「あれ、知らなかったんですか?」
「何がだ」
「えーっと…担任の岡部先生から今学期の予定表渡されてると思うんですが…」

そう言えばそんなもんもあったな、すっかり忘れていた。

「じゃあ、今見て下さい」
「わかった」

俺は鞄からそれを取り出した。そして唖然とする。

「体育祭、ないのか!?」
「そうなんですよ〜、去年は体育祭もやったんですけど、今年は文化祭だけなんです」

…えっと、つまり?

「この学校は一年ごとに秋にやる出し物が違うってこと。まあ姫が居るとき限定だけどな」
「そゆことっ!去年はこっちに居る有望なのはみくる一人だったからねっ、朝倉ちゃんと古泉くんみたいに二人居ればまだ姫もやってるんだけどね〜」
「そのかわり姫ほどごてごてしてませんけど女装してクラスの応援とかさせられました…」

ちょっと遠い目をしつつ朝比奈さんは言う。心中、お察しします。

「つまり、これから三年間は交代で文化祭と体育祭をやるってことさっ」

また鶴屋さんとハルヒの権力だろうか。もう今更気にもせんがな。

「というわけで、まずは前夜祭の出し物の練習!この日のために色々用意したんだぜ〜」

鼻歌混じりでハルヒが出して来たのは、CDラジカセだった。何をするんだ?

「まあまあ、静かにして聞いてろって」

そう言ってハルヒがスイッチを入れると、「ちゃっちゃらっちゃ〜」とやたらと軽快なメロディが流れ始めた。
続いてハルヒらしき声で「なぞなぞみたいに地球儀を解き明かしたら〜」と歌詞が流れる。思いっきり裏声だな。

「…これは一体…?」
「オレの自作の曲だよ。けっこういいだろ?」

相当ハルヒは自信があるらしく、勝ち誇ったようににんまりと笑っていた。たしかにまあ、いい曲なんじゃないか?明るくて、お祭り騒ぎにはぴったりだと思うが。
音楽を流したまま、ハルヒは歌詞の書かれた紙を配る。そして、何やら振り付けらしき物が書かれた紙も。まさか。

「で、姫にはこれを歌って踊ってもらうから」
「はぁっ?!」

歌詞をよくよく見てみると、それぞれのパートなのか、三色に色分けされていた。恐らく俺が黒、古泉が赤、朝比奈さんがピンクと言った所だろうか。

「大丈夫大丈夫、オレと有希も後ろで踊るんだからさ。五人でしっかり覚えような。あ、あと流石にこれだけ激しい踊りを歌いながらは難しいだろうし、先にレコーディングな」

相変わらずさっさと物事を薦めるやつだ。呆れるどころか思わず感心してしまう。

「じゃあ今日からびっしばっし練習するからな!期限は一ヶ月。次の一ヶ月は寸劇の練習だから、覚悟すること、いいな!」

いいも何も拒否権は最初からないんだろうが。この数ヶ月で十分学んだよ。








「とりあえず、お前らの代理で俺と有希と鶴屋で踊るから、よく見とけよ」

そう言ったハルヒたちの胸には、それぞれ『キョン』、『古泉』、『みくる』とあった。わかりやすいのはわかりやすいが…。
ハルヒが少々前に立ち、他の二人が少し後ろに下がる。ちょっとまて、俺が真ん中か?!
パチン、とハルヒが指を鳴らして、それを合図に古泉が音楽をかける。
前奏が始まると全員がポーズをとり、そしてダンスが始まる。

「う、わ…」

恐ろしいくらい三人の動きがそろっている。所々ソロパートもあるのか、動きが違ったり真ん中が変わったりするが、これ全部ハルヒが振り付けしたのか?

「ええ、そうみたいですよ」
「…すごいな」

ホントになんでも出来る奴だ、と改めて感心してしまう。
…というか、これ俺が真ん中になってる率高く無いか?古泉とかにしとけよ古泉とかに!
そしてハルヒの説明で言えば、これはオープニングセレモニーでは一番までの歌詞で踊るらしいのだが、エンディングセレモニーではフルに通して踊るらしい。こんなの覚えられるのか?

「ま、殆どの場面が同じ動きをするんだし、気にしない気にしない」
「ダンスの流れは以上。まずはレコーディングだから、歌詞とメロディを覚えると良い」

あれだけ踊ったと言うのに息ひとつ乱してない二人がそういうが、お前らどんな体力してんだ。

「さぁ?ま、それはいいからちゃっちゃと練習!音楽室行こーぜ」

そうして音楽室に連れられるなり、ハルヒはピアノに座った。お前、弾けるのか。

「ま、大抵は。ギターとかも得意だぜ?」
「ホントに器用になんでもこなすよな、お前」
「褒めたって何にも出ないぜ?」

そうは言うがやはりハルヒは嬉しそうにしていた。

「まず、キョンパートからな。なぞなぞ、から行けるさ、までがキョン」

ハルヒが歌いながらピアノの鍵盤を叩く。

「さ、キョン」

ハルヒに促されて歌ってみるが…こんなもんか?

「…ま、大体はいいだろ。次は古泉くん」

同じようにしながら、今度はわくわく、から誰ですまで。
その後は全員でブーン、そして朝比奈さんがワープで、から思いは、まで。
後は全員で歌いつつ、ソロを交えると言う流れである。

「後で全員MD渡すから毎日でも聞くように」

まぁ聞けば嫌でも覚えてくるもんだしな。

「いいか、明日までには自分のパートくらいは歌えるようになっとくこと。これ命令な」

んな無茶な。そう思うような課題を出した後、俺たちは解散となったのである。





そしてその帰りの事だった。
ふいに隣を歩いていた古泉が、こちらをじっと見ていたのだ。

「…な、なんだよ」
「ねえ、キョンくん」

ふいに古泉が俺の頬に手を伸ばす。だから、なんなんだよ。

「…スキンケア、怠ってますよね?」
「う」

古泉の指は肌の荒れ具合を確かめるように頬を撫でる。いやまあ、乾燥する季節だしな。かさかさになってきてるのは解るんだが…。
如何せんめんどくさいのだ。よくこいつはそんなことを毎日しようって気になるもんだ、と思う。
そりゃあ俺も、古泉に言われてから一週間くらいは真面目にやっていたんだが…。

「これだけかさかさになってるんですから、ちゃんとした方がいいですよ」
「けどなぁ…面倒なんだよな、結局。ついつい忘れると言うか…」

そう言ったとき俺はしまった、と思った。その頃には遅かったが。
古泉の目が完全に据わっていたからである。

「ほ、ほらっ、朝比奈さんとかもやってるんですかっ?」

俺は慌てて朝比奈さんに方向転換した。

「え、あ、はい、やってますよっ、…古泉くんが怖くて…」

ぼそりと一言聞こえた俺はとても納得してしまった。つまり朝比奈さんも俺と同じように肌荒れになって古泉に怒られたらしい。

「ね、ほら朝比奈さんもやっていらっしゃるんですから、あなたもちゃんとやりましょうね?」

にっこりと笑って古泉が言う。いつものように天使の笑顔ではあるのだが、なんなんだろう、この威圧感は。

「ああ、でも」

古泉は何かを思いついたように付け足した。

「あなたの場合言ってもやらなさそうですし、この際僕が直々にやってさしあげますよ。どうせ隣の部屋なんですし」
「はっ!?ちょっと待て」
「待ちません。同じ姫として僕のプライドが許せません」
「いやだからと言ってお前にやってもらわなくてもだな「じゃあ早速僕の部屋に行きましょうか、早い方が良いですからね」…って話をきけえぇーー!!」





こうして俺はこれから毎日古泉のスキンケアを受ける羽目になったのである。…これから古泉は怒らせないようにしよう、うん。




























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