『さーて、みんなー!聞こえてるっかなー?』
野太い雄叫びが聞こえる。…まあ男ばっかりな学園だから仕方がない。
『よしよし。それじゃあ…
北高祭、はっじめるよーーー!!』
歓声とともに沢山の拍手が鳴り響く。今日は前夜祭だからな。
「3、2、1で行くぞ」
「はいっ」
「がんばりましょう」
ハルヒたちに目配せすると、頷いた。拍手が段々小さくなる。すると音楽が鳴り始めた。俺たちは走って舞台に登場する。
わああぁぁぁ、と大きな歓声が上がる。観客に背を向けたまま、左手を頭に、右手を当てる。
さあ、始まる。
『まずは、姫によるダンスだよー!曲は、ハレ晴レユカイっ!さあみんな、手拍子手拍子っ』
軽快なメロディーとともに俺たちは踊りだす。同時に手拍子が始まる。
『なぞなぞみたいに地球儀を解き明かしたら』
CDに合わせて自然と口が動く。何回も歌ったせいだな。
ステップを踏みながら古泉と立ち位置を交換する。
『わくわくしたいと願いながら過ごしてます』
古泉も心無しか楽しそうに踊っている。こういうの、結構好きなのかもな。
『ワープでループなこの想いは』
あれだけ緊張していた朝比奈さんも、楽しそうに笑顔である。始まってしまえばこんなものだろう。
『アル晴レタ日ノ事 世界一のユカイが』
ここからハルヒと長門が合流して、五人で踊りを始める。
全員の動きを揃えるのにくろうしたっけな、なんて苦笑する。
『追いかけてね 捕まえてみて』
ここで全員でぐるりと回る。特にこの動きを揃えるのが大変だったんだよな。
『大きな夢&夢 好きでしょう?』
本来なら朝比奈さんのソロなのだが、前夜祭ショート版ということでここは全員で歌っている。
そして最後の「ジャン、ジャジャジャン、ジャジャジャン、ジャッジャッ」という音に合わせて五人でポーズ。
しばらく荒い息を吐いたままそのポーズで固まっているが、観衆から反応がない。…失敗、か?
しかし違った。すぐに今までと比べものにならないほどの歓声が上がる。
アンコール!なんて声まで聞こえて来て、すぐに全校生徒での大合唱になる。
『はいはい、みんなー、これは前夜祭だからね〜。ちゃーんと最後にフルでお届けするから、それを待つにょろよ〜!』
えー、なんてノリの良い生徒の声が聞こえた。
『ふっふっふ、そのかわり、だね!』
カーテンが閉められ、俺たちは舞台袖から急いで機材を運ぶ。…よし、セットはばっちりだな。
合図をすると、静かに幕が上がる。
軽快なドラム音が鳴り、そして長門のギターの音が体育館に広がって行く。
『続いて、生徒会によるバンドをお送りします』
『みなさんとっても素晴らしいので、耳を大きくして聞いて下さいね〜!』
『聞いて下さい、God Knows...』
…さて、このナレーションで俺たちの仕事はとりあえず終わりだ。セーラー服を脱いでしまいたいところだが、ちゃんとバンドも聞いていたいしな。しばらく後ろから鑑賞してようじゃないか。
ハルヒたちは俺たちのこのセーラー服、喫茶店の服、姫衣装だけでなく、バンド用の服まで作っていた。いわゆるパンク系の服だ。ハルヒと長門のはわざとガーリーに、朝倉と鶴屋さんのは普通にパンク、喜緑さんのはパンクというにはちょっとおとなしいかもしれない。
ハルヒがヴォーカル、長門がギター、朝倉がベース、鶴屋さんがドラム、喜緑さんがキーボードと言った具合である。
「…それにしても、凄いな」
「ええ、そうですね」
照明機器を弄りながら古泉が同意する。ハルヒは本当に何でも出来てしまう。もちろん、本人の努力あってこそだが。
『乾いた心で駆け抜ける ごめんな何も出来なくて』
「…ほんとに、羨ましいとさえ思えないくらい、凄い人ですよね…」
バンドをじっと見つめながら朝比奈さんが同意する。
文化祭が終わって、ぶっ倒れなきゃいいが。
『だからついていくよ どんな辛い世界の闇の中でさえ きっといつでも輝いて』
歌詞を聞いていて、ふとそれは今のハルヒのことだろうな、と思った。いつだってまぶしいくらい、まっすぐで、輝いている。…人の話を聞かない事は多いけどな。
「…楽しそうだ」
「ええ、眩しいくらいですね」
古泉もそう思っていたんだろうか。
『my way 重なるよ いまふたりに God bless...』
ハルヒもギターを引きながら長門と背中を合わせる。どちらかというと無表情な長門も、楽しそうにしている。
演奏が終わると歓声と拍手が鳴り響く。
『またエンディングセレモニーで会おうぜ!!』
ハルヒがそう言うと幕が下がってハルヒたちが戻ってくる。
「大成功!!」
「うわっ」
ハルヒに飛びつかれて俺は思わずたたらを踏んだ。
「あー気持ちよかった!キョンも、古泉くんも、みくるちゃんも、踊っててそう思ったろ!?」
「…まあ、な」
あれだけ沢山の人に見てもらえて、喜んでもらえて。
楽しいと思わない訳ないだろう。
「今までで今年が一番楽しいかもしれないな!今こんなに楽しくてどうするんだよってくらい楽しい!」
はしゃぎ回るハルヒが、初めて等身大に見えたかもしれない。いつもがんばりすぎるくらい、がんばっているから。
「…お疲れさん。徹夜してハイテンションになってるんだろ」
「何だってぇー?昨日はちゃんと寝てるっての」
「でもここ数日は徹夜していた」
「うわ、有希、それは言うなって!」
俺はくすりと笑ってハルヒの頭を撫でる。
「ま、どうせ大して寝てないんだろ。クラスの準備はやっとくし、劇の方は朝倉や喜緑さんに見てもらうから、もうちょっと寝てろよ」
「そうですよ、本番で倒れてもらっては困りますから」
「ぼくたちなら大丈夫です!」
…じゃあ、甘えさせてもらう、とハルヒは生徒会室に戻っていく。あそこのソファ、柔らかいから気に入ってるんだよな、あいつ。
「…さて、とっとと着替えてクラスを手伝うか」
「…すげえな、これ」
「ええ、僕も驚きましたよ。ちゃんとした監督がいても、結局作ったのは素人ですからね」
アリスハウスは見事なくらい普通の店のようになっていた。
「でもこれ、解体は出来るだけ簡単にできるようにしてもらってるんだよ」
「へえ…凄いな」
「国木田のアイディアなんだぜ、楽しいからって凝りすぎても片付けに困るだろって」
と谷口が俺に耳打ちする。ふぅん、色々考えてるんだな。
「ただの思いつきだよ」
こういう謙虚なところが国木田らしいとは思うけどな。
「あ、そうだ。これハルヒから預かって来た衣装」
「ありがと。へえ、凄いな…流石は涼宮さんだね」
「どれどれ…お、確かにすげえな!」
そこには誰が何を着るのか、なんて指示までしてあった。流石ハルヒ。
「あはは、谷口はハンプティダンプティだって。似合ってるんじゃない?」
「げっ、マジかよ…まあ下っ端トランプ兵じゃなかっただけ…」
「トランプ兵は男前が兵士、可愛いやつはメイド風だってよ。そいつらが給仕係。料理作るやつはこのエプロンで、役付きは客引きなんだと。それ以外のやつは荷物運びやチケット売りか」
衣装を作りながら全員に振り分けまで考えてるんだから、ハルヒは本当に凄いと思う。
「最終チェックも今終わったとこだよ、あとは材料の搬入と保管。まあこれだけの為に業務用の冷蔵庫まで借りたしな」
準備はばっちりってわけだ。
「あとは僕たちがどれだけお客さんを引き込むか、ですね」
「まあな」
俺たちの所は金持ちクラスだからここまでやってるが、他のクラスは普通の文化祭のように屋台をやるところもあるし、別の金持ちクラスはミニテーマパークまで作ってるしな。
これだけいろんなものが混じり合った文化祭というのも珍しいに違いない。
「…楽しみだな」
「ああ、そうだな」
「絶対成功するよ」
「ええ、そうですね」
四人で拳をつき合わせてクラスメイトたちの元へと走る。
文化祭の本番は、いよいよ明日だ。
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