「好き、って…」
「そのままの通りです。恋愛感情としてあなたのことが好きなんです」
そんな、まさか。
「ずっ、と…って」
「あなたが転校して来た時からです」
「なんで、俺なんだ」
「あなただから、としか言い様がないですね。もちろんドッキリでも、涼宮さんに言われたからでもありません。劇でのキスも、さっきのキスも、僕がしたいからしました。弁解するつもりも、謝罪するつもりもありません」
古泉は一気にそれだけ言うと、俺をすとんと床に下ろした。
「キョンくん、古泉くんっ」
朝比奈さんの声でここが本部だとやっと気が付いた。
「今終了したけど、お前ら無事に守り抜けたわけ?」
「にやにやしながら聞くな。…朝比奈さんは大丈夫でしたか?」
「あ、はい…鶴屋さんに助けてもらいました」
「姫の仕事でもそこまでさせるのは可哀想だからねっ。まあそれにこっちは邪魔しないなんて一言も言ってないからありだろっ?」
さ、閉会式にしようか!と鶴屋さんが言って、文化祭は閉幕を迎えることになった。
一度踊ればなれたもので、例のダンスも無事最後まで踊りきることが出来たし、ハルヒたちのバンドは一般客も熱狂的な盛り上がりを見せ、鳴り止まない拍手とともに終わった。
それに、うちのクラスは三日間の売り上げがダントツの一位。鶴屋さんに表彰されたハルヒは少しだけ照れくさそうに、でも、とても嬉しそうに笑っていた。
打ち上げだー!と騒ぐ生徒会のメンバーを尻目に、俺は一人テラスに出て考えていた。
古泉が俺の事を好き、という気持ちを疑ってるわけじゃない。嘘や冗談で男にキスができるか?それに、嘘をついたとして何の利益になる。
答えを出すために、俺は自分の気持ちについて考えていた。
「…、」
知らず知らず、指が唇に伸びる。キスされたとき、どう思った?
嫌じゃなかった。舌が忍び込んで来たときも、不快には感じなかった。佐々木にキスされそうになった時は、止まらないと思ったから目を閉じたけれど、嫌だと思った。この差はなんだ?
それに俺は、古泉が演技の一環で、それにハルヒの命令でキスされたんじゃないかと思って、ムカムカしなかったか?
古泉の傍にいるのが俺じゃなくて、たとえば、可愛い女の子だと想像してみよう。古泉は幸せそうに笑って、その子にキスをする。
「っ…」
ずきん、と胸が痛むのを感じる。
俺は、古泉のこと、好きだと思っていいんだろうか。
少なくともこの胸に渦巻くのは醜いくらいの嫉妬心であることは間違いない。でもこれは、恋心からくるものなんだろうか。
恋なんか一度もしたことがないから、わからない。そもそも、俺と古泉は同性で…。
「…なーにそんなとこで暗くなってんだよ」
「ハルヒ…」
ほら、とハルヒがチューハイを投げて寄越す。
「どうした、マジで」
ハルヒが心配そうに俺を覗き込む。相談する相手が欲しかった俺は、迷惑だろうな、と思いつつもハルヒに話してしまうことにした。
「告白、されたんだよ」
「ああ、古泉くんに?」
ってなんでお前が知ってるんだ!
「いや、なんとなくそうかな、と思っただけだよ。ふぅん…」
しまった、嵌められた。ハルヒはにやにやとしている。
「で、返事は」
「まだだ。…それを考えてたんだよ」
「でも殆ど答えは出てるって感じだな」
お前は千里眼か!
「バーカ、お前がわかりやすいんだって。…どうなんだよ」
「…俺、多分古泉の事、好きだ」
「じゃあ、言いに行ったらいいだろ、古泉くん今部屋に居るし」
「言いに行けたらもう行ってる…」
本当に古泉の事、恋愛感情で好きかどうかわかれば。いや、こんなの逃げだって知ってる。
「…あーもう、じれったいな!」
「うわっ?!」
ハルヒに首根っこを掴まれ、ずるずると中に引きずり込まれる。
「なんだよ!?」
「飲め!」
「はぁ!?」
「飲んで前後不覚のフラッフラになれ!で、やけくそになってから告白の返事してこい!」
そう言うハルヒの目が据わっている。…酔ってないか?
「大丈夫、程々に正気だから」
「ちょっとは酔ってるんじゃねーか…」
そうは言いつつも、飲んで度胸を補うというのには賛成だったので、俺はハルヒに従ってパーティの輪に混ざった。
「うわ、一体どうしたんですかこれ…」
ふわふわとする意識の中、そんな声が聞こえて、俺は薄く目を開けた。周りには酒を飲み過ぎたせいかみんなが死んだように眠っている。
「あ…起きられたんですか?」
答えを貰えるとは思ってない、そんな風に古泉はいつもと同じ態度を取ってみせて、俺はそれがムカついた。ちょいちょい、と古泉を手招きする。
なんですか?と無防備に近づいて来た古泉をさらに引き寄せ、自分からその口にキスした。
「っ…!」
それは触れるだけのもので、すぐ古泉が驚いたように身を離す。
「…酔ってるんですか?」
「酔ってない…」
いい感じに頭はふわふわしてるがな。
「酔ってらっしゃいますよ、ほら、部屋まで行きましょう」
古泉が俺の肩をつかみ、立ち上がらせる。俺は素直にそれに従い、部屋まで行く。
古泉は俺を寝室まで運び、ベットに寝かせようとする。俺はそれを無理矢理引っ張った。
「え? うわ…!」
どさっ、と音がして、古泉がベットに倒れ込む。俺はその上に乗っかる。
「きょ、キョンくん…?」
「誤摩化すな。逃げるな。俺は…ちゃんと、お前が好きだから」
そうだ、俺は古泉が好きだ。じゃなきゃこうやって抱きしめたいと思わない。キスしたいなんて、思わない。
ぎゅーっと古泉を抱きしめていると、段々体温と心音が心地よくなって来て、まぶたが降りてくる。
キョンくん、と呼びかける声をBGMに俺はゆっくりと目を閉じた。
ちなみに朝起きたときまで俺は古泉に抱きつきっぱなしで、古泉は一晩たっぷり生殺しを体験したのであった。
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