そして問題の放課後。俺はずるずると長門に引きずられるようにしながら、何故か古泉とともに生徒会室に向かっていた。
というか何故俺は長門に引っ張られているのだろう。まあ言ってしまえば俺が詳しく生徒会室の場所を知らないからなんだが。
「…ここ」
ぴたりと長門の足が止まって、前方を見る。なんだかやたらとドアがでかく無いか?
「会長の趣味ですよ」
どんな趣味だ一体。
「まあほら、行きましょう」
こんこん、とノックをすると「はぁい」と返事が返って来て、こちらがドアを開けるまでもなく、開いた。自動という訳ではなく、中に居た生徒が開いたんだが。
「ご苦労。後は外に出ててもらっていいよん」
俺たちの真正面に座った男が、ドアの所の二人に向かってそう言うと、男二人は出て行った。と言っても、今の口ぶりでは外で待っているらしいが。…学生、だよな、あいつらも。
「さてさて諸君、わざわざこんな所まで出向いてもらってご苦労っ!」
またまた美人なその人は、俺たちをみてにぱっ、と笑った。
はぁ、と俺は返事を返しつつ、部屋を眺める。なんだか校長室のように豪華である。いや、下手したら校長室より、か?
「長門ちゃんはあっち行ってていーよん、手伝ってきてあげてくれないかなっ?」
「わかった」
会長だというのに長門は敬語も使わず、それだけいうと奥の部屋に引っ込んで行く。手伝う? というか、何が。
「ま、後一人くる予定だから座って座って。飲み物もあるしね」
パチン、と会長が指をならすとどこからともなく執事のような人が現れ、飲み物を置いて行く。な、なんだこれ。
その上座ったソファーもこのままベットに出来そうなくらいふわふわだった。おいおいおい。
「なあ古泉、ここは生徒会室なんだよな?」
「ええ、そうですよ?」
「なんでやたらとこんな豪華なんだよ。それに会長しかいねーじゃねーか」
「いえ、ちゃんと居ますよ。黄緑さんと、朝倉さん、それに涼宮さんと長門さんも生徒会の一員ですから」
言われて室内を見回せば、確かに会長の後ろの方に二人座っていた。つか広っ!?
一人は天然なのかくるくるふわふわとした髪の大人しそうな人で、おそらく上級生なんだろうが、同い年くらいにしか見えない。もう一人はストレートの短髪で、学年プレートが見えたので、同級生だと解る。ん?そういえばアイツ、同じクラスにいたような。
どちらにせよ俺に言えるのは、二人とも美形だということだ。その上涼宮と長門?
「なあ古泉、この学校の生徒会は顔で選ぶ決まりでもあるのか?」
「…うーん、強ちハズレとも言えませんからね…しかし皆さん、大変優秀な方々ばかりですよ」
「そゆこと。昔は顔で選ばれた会長も居たみたいだけどねっ。ま、褒めてくれたのはめがっさ光栄だね、キョンくん」
聞こえていたらしい。というかあなたもそれですか。そもそもその名前どっから…
「それにしても、みくる、おっそいなぁ」
俺の突っ込みは無視し、会長がそう呟くように行った時、トタトタと走ってくる音が聞こえた。そして、ドアが開かれる。
「お、遅れてごめんなさいっ、鶴屋さん」
「まぁーた掴まってたのかいっ?大変だねぃ。ま、座って」
入って来たその人を見て、俺は驚いた。ふわふわした長い髪を後ろでくくっていて、くりくりとした大きな目が大変可愛らしい。制服を着てさえいなければ、絶対女の子に見える!いや、制服を着ててなお女の子に見える。
どうも上級生らしい。会長と同じく、二年生。
「さて、改めまして、俺が会長の鶴屋だよん。で、後ろのが会計の黄緑ちゃん。その隣がまあ同じクラスだから知ってるかなっ、書記の朝倉ちゃん」
ペコリと二人が会釈する。俺も会釈し返した。…ん?副会長は?
「副会長は君もよく知るハルにゃんだよっ」
ハルにゃん? ああ、涼宮か。それにしても元気のいい人だな、鶴屋さん。
「さて、君らを呼び出したわけなんだけど…まあみくると古泉くんは予想ついてるにょろ?ただハルにゃんの準備が終わったかどうか…」
「終わった」
音も立てずに長門が戻って来て、俺は滅茶苦茶驚いた。「そ、ごくろーさんっ!」と鶴屋さんはにこりと笑う。
「ま、これで本題に入れる訳だぁね。単刀直入に言うよ、君たちに『姫』、やってもらうからね!」
「え、ええぇぇえ〜っ!?」
大声を出して立ち上がったのは遅れて入って来た方である。ショックのあまりなのか、涙で瞳が潤んでいる。
「つ、鶴屋さぁん、ぼく散々断ったじゃないですかぁ」
「だーめ、これは決定事項なのさっ、大体中等部でも君らがやってたじゃないか」
「で、でも、高等部からは別の人にって…」
「なるかも、っていっただけさっ」
あうぅ…とその方はソファーに沈む。なるほど、中々言い方の上手い人だ。というか、姫って?
「古泉くんはっ?」
「別に依存はありませんよ、逆らっても無駄ということは三年間でよく知りましたし。それに、こちらに利益がないわけではないんですから」
「物わかりがよくて助かるねっ。さて、キョンくんには色々と説明しなきゃねっ」
鶴屋さんは三番目の人を指差して、
「この子は朝比奈みくる。女の子みたいに見えるし女の子みたいな名前だけど、立派な男の子さっ、なんなら下脱がしてみる?」
「つ、鶴屋さぁん!?」
「冗談だよっ、で、みくると古泉くん、それとそっちの朝倉で、中等部のときは姫をやってもらってたんだよ。けど朝倉がめきめきと背が伸びたから、やめなきゃいけなくなってねっ、人員補給しようとしてたら、ハルにゃんがいい子見つけたっていうからさっ」
さっぱり話が呑み込めない。つまりその姫というのを俺にやって欲しいんだろうが、姫って言うのは一体?
「ここは男子校ですから、潤いがないでしょう?」
説明を古泉が引き継いだ。まあ、確かにな。ある意味潤っていると言える気もするが。
「一部限定ですし、所詮は男です。ですから、その潤いを補給するために会長…鶴屋さんが作った制度、それが姫です。姫というのは、」
「こういう格好をして笑顔と愛を振りまくいわゆるアイドルって奴!」
バンッ、と扉を開け放って涼宮がやって来た。その前には、ふりふりひらひらのドレス。俗にいう、ゴスロリ。
「あー、疲れた。つるにゃん、オレにも飲み物ー」
「おっけー!お疲れさんっ!」
「というわけだキョン、選ばれたからにはお前はこれを着るんだよ」
は、意味が分からん。俺は癒す側でなく癒される側のはずだぞ!?朝比奈さんに是非とも俺も癒されたい!というかなんでそんなもん俺が着なきゃ――――
「もちろん、ただじゃないさっ、ちゃぁんと特典はあるよん」
断ろうとした俺の言葉を遮り、鶴屋さんはにんまりと笑う。
「その一。姫の仕事が授業とかと重なったり、早退、欠席になる場合、それらは全て公欠扱いになるっ」
まあおいしいと言っちゃおいしいのだろうが、そんな惹かれる条件ではない。が、鶴屋さんはさらに言葉を続ける。
「その二。学校関連でかかる費用は全て無料っ!」
「え、えええっ?!」
俺は驚いてがたんと立ち上がった。
「筆記用具、体操服、靴に制服、教科書、それから食事代もだねっ、全部支給品扱いになるのさっ、個人的な食事代とかはクレジットカードを渡すから、好きに使ってくれて構わないのさっ、つまりお小遣いにもなるわけだねっ」
そ、そんなことして良いんだろうか。その上ここって入学金がバカ高いとかそんなことはまったくなかった…よな? 資金とかどっから…
「実は鶴屋さんや涼宮さんの家は大変資産家でして。個人的に学校に色々融資なさってるんですよ」
ははぁ、なるほど。
「まあちゃんとこちらが無為にお金を使ったりしない生徒かどうかは見極めてるわけだしねっ」
「じゃ、じゃあそんな風にしたら…」
「みくる、君の性格じゃそれは無理ってもんだよねっ」
「う…」
朝比奈さんは再び沈み込んだ。
「その上更にっ、写真部の売り上げの一部を肖像権の使用料として君たちに渡してるのさっ、姫になれば写真もいっぱい撮られるからねっ、具体的には月2〜3万なんてちょろいよっ」
おいしい。おいしすぎる。裏があるとはいうが、裏は既に見えているのだ。いや、その裏があってなおおいしい条件じゃないか!
叔父夫婦に世話になっている身だ。肩身だって狭い。こうやって少しでも恩返し出来ればいい。それに、俺がここで多少なりと稼げば、妹の学費にもなるだろうし、それに俺の自立のための資金にもなる。
「どうっ?姫、やってくれないかなっ?」
「やります!!」
俺は即答した。
かくして、俺はこれから三年間、この学校で姫をやっていくことになったのである。
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