「はぁー…なんだってこんな長い坂を上ったり下ったりしなくちゃなんないんだ?いっそのこと坂の上に寮を作れば良いだろうに…」
「普通の寮制の学校だと登下校での出逢いっていうベストポイントが演出出来ないから、とかなんとかっていう噂を聞いたこともありますよ、つくづく思いますけど、うちの理事長も変わった人ですよね」
「理事長は鶴屋の祖父だと聞いている」
「へぇー…」

流石鶴屋さんのおじいさん。なんつー性格をしてるんだよおい。

長門、古泉と会話しつつ俺は寮への道を歩いている。長門は人のことを呼ぶ時大抵呼び捨てにしているらしく、上級生にも遠慮がない。ちなみに後ろには朝比奈さんもいるのだが、思い溜息とともにとぼとぼと後ろをついて来ていて、時々立ち止まらないと置いて行きそうだ。

「あの…大丈夫ですか、朝比奈さん」
「大丈夫じゃ、ないですよぅ…」

涙声だった。ついでにとても恨みがましそうだった。まあ気持ちは解らないでもない。何しろ俺が『嫌だ』とはっきりきっぱり断った場合、他の人間を探すなりなんなりしなければならなく、少なくともその間は姫も休止になるのだから。
まあしかし、言わせてもらえばあの鶴屋さんと涼宮のことだ、俺がどうやっても断れないように仕向けたんだろうけどな。

「キョンくんは、理解してます…? 姫になるっていうことは無駄毛の処理とかお肌の手入れとかすっごい気を使わなきゃいけないんですよ…それに、色んな男子生徒からもみくちゃにされるんですよ…?」
「…そうなのか?」

古泉を見ていた限りそうでも無い気がしたが。

「僕の近くには涼宮さんがおられますし、その上朝比奈さんは自己防衛が苦手のようですから」
「自己防衛?」
「ほら、これですよ」

古泉はにっこりと俺に微笑みかける。笑うとますます女の子っぽいな、と思わないでもないが、それが?

「…あなたはそういうタイプじゃないみたいですけど、こういう笑顔を見せられると、大抵の人は神々しくて近寄れないんですよ、天使に触れてはいけない、というか」

自分で言うなよそれ。

「…すみません自分でもそう思いました…」

古泉はちょっと照れていた。

「朝比奈の場合はすぐに泣きそうになったり狼狽えたりしている。一般男子生徒にはそこがうけるようで、抱き締められたり撫でられたりすることが多い」
「そうなんです…ぼくもわかってはいるんですけど…そんな反応できませんよぅ…」

朝比奈さんは今にも倒れ込みそうである。

「…朝比奈さん」
「…はい…?」
「一般の男子生徒からでいいなら、きっと俺が守ります、だから元気を出して下さい」

その場限りの嘘でもなんでもなく、俺は本心で言った。なんというかこのお方は、非常に保護欲をそそられるのだ。

「ホント、ですか…?」
「ええ、マジです。流石に俺に涼宮や鶴屋さんからあなたを守ることは出来ませんけど、俺はあなたよりは身長があるんですし、一般生徒くらいからなら」
「っ…ありがとう、キョンくん!」

感激のあまり朝比奈さんに抱きつかれた。うむ、見た目だけなら100%女の子だ。胸がないのが非常に残念である。

「…」
「ん? どうした、長門?」

無言で袖を引っ張られた。不思議に思っていると、何故か朝比奈さんと一緒に頭を撫でられた。な、なんなんだ?
まあ心無しか長門も和んでいたような気がするので、気にしないことにした。でかい図体の割に、小動物や子犬のように見えるのは何故なのだろうか。











そんなこんなで寮についたのはいいんだが、そこに並んだ建物に俺は愕然とした。
一方は、普通のマンションのような建物。普通のマンション、といってもさながら高級マンションだがな。
しかしそれでももう一方の建物には敵わない。何しろそれはやたらと豪奢な建物で、さながらタージ・マハルのようである。

「…なあ、これってまさか…」
「ええ、寮ですよ、あなたも予想がついてると思いますが、僕らの寮はもちろんこちらです」

そう言って古泉が指差した先はやはりあの大きな建物。いっそのこと笑うべきか?

「あちらはまあ、普通の生徒の方の場所ですね。朝食のための食堂は同じ場所で食べますが、基本的には設備はバラバラです」
「それと、涼宮から伝言。『何か足りないものがあればいくらでも要求してかまわない』、と」

いやなんかもう寧ろ足りすぎてるからなくしてくれって感じなんだが。

「…なあ、俺あっちで良いんだが…」
「そう言うとは思った。けれど涼宮が許さないと思う」
「でしょうね。どうもあなたは彼に気に入られたみたいですから。それに、僕たちがあちらに住まうのは一般生徒の希望でもあるんですよ」

古泉は少しだけ肩を竦めた。

「男だと解ってはいても希望を持ちたいんでしょうね。トイレや風呂が一緒では希望もへったくれもないそうで。なので僕たちは隔離されるような形で部屋を与えられているんですよ」
「普通だと一般生徒さんは二人一部屋なんですけど、ぼくたちは一部屋…というか1フロアずつくらい渡されてます」

敷地面積も相当あるのに、部屋割も広いらしい。大まかに教えられた限りでは、一般生徒の寮も美形とそうでないのとで多少差があるらしい。
フロア割りは、三階、つまり一番上が涼宮と鶴屋さんの部屋のあるフロア。その下の真ん中が長門と朝比奈さんのフロアで、西館に黄緑さんと朝倉の部屋。そして東館に俺と古泉のフロア。その下は大風呂とか遊びのためのスペースがあるらしい。って、ホント生徒会と姫しかいないスペースなんだな…。まあ一応、他にも数部屋スペースはあるらしいんだが。
エレベーターに乗り、それぞれのスペースへ行く。涼宮たちはそのまま上へ、朝倉と黄緑さんは西へ、長門と朝比奈さんはまっすぐ、俺たちは東へ。
しかしまあ驚いたのは、1つ1つの部屋の広さだ。

「…広」
「ええまあ、広いですね。あなたの荷物も届いてると思いますよ。とりあえず簡単にここの設備の説明、しましょうか」

頼む。どうでもいいがお前説明好きだよな。
そうですね、と古泉は笑いながら部屋を説明して行く。南側が俺で、北側が古泉。驚くことにそれぞれの部屋にまで風呂スペースがあるらしい。ベットサイズも一人なのに何故かダブルサイズ。キッチンもついてるし、冷蔵庫、洗濯機など完備している。3LDKくらい。それも1つ1つの部屋がでかい。普通に借りたらいくらすんだよこれ…!

「このくらいで驚いてちゃこれからやってけないぜ?」

後ろからにゅ、っと涼宮が出て来て背中から抱きつくように乗っかる。

「んな事言ったって俺はれっきとした庶民…っていうかいつのまに此処に来たんだよお前。そして重いからどけ」
「さっき。オレマスターキー持ってるし。とっとと荷物置いたら風呂行こうぜー」
「風呂?なんでまたそんなところに…」

いーからいーから、と涼宮が無理矢理に俺の荷物を置かせ、俺を引っ張って歩き出す。

「っつーか風呂っていうなら着替えとか…!」
「んなもん適当に向こうにもおいてあるって。古泉くんも来いよー」
「ええ、すぐに」

古泉の声が遠ざかるのを聞きつつ、俺はずるずると引きずられていく。ついた先は勿論大浴場。何故か既にそこには長門や朝比奈さん、鶴屋さんがいた。なんだなんだ?

「さ、ほら脱げキョン」
「は? あ、いやまあ風呂場だから脱ぐのが当然だろうが…」

何をそんな睨みつけるようにこっちを見るんだ。脱ぎ辛いだろうが。

「別にオレも脱ぐし気にすることないだろ普通」
「あの…気にすると、思いますけど…」

ですよね!朝比奈さん!

「ふーん、そんなもんか?」

まあ男同士で見られるのを恥ずかしがるというのもどうかと思ったりしないでもないが…

「すみません遅くなりました」
「ん?ああ、大丈夫大丈夫、そんなに待ってないしさ」

古泉が何やら荷物を持ってやって来た。どうやら一部は俺の服らしい。

「あなたが持って来て欲しそうだったので」
「ああ、サンキュ」
「じゃあまあ、役者もそろったことだし」

パン、と手を叩いて注目を集めると、涼宮はにぃ、と嫌な感じの笑みを浮かべた。

「いっちょ、行きますか!」





























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