「さて、それでは皆様」
「姫に最も大切なもの、まあ二人はわかってるだろうけど、キョンくん、君は解るかな?」

姫に最も大切なもの?さっぱり検討もつかん。

「…ま、普通はそうだろうね」

少しだけ呆れたように朝倉がいうが、俺は女装すら初体験だ。というか一生体験する気はなかったがな。

「姫に最も大切なもの、それは笑顔だよ」
「笑顔?」
「俗にいう姫スマイル、というものです。つまり愛想を振りまけ、ということですね、一例ですと、」
「古泉、天使の微笑み」
「はい」

朝倉に指示されて古泉はにっこりと笑う。う、なんか、すごい花が飛んでるように見えるんだが。

「朝比奈さん、はにかみ」
「は、はい」

一方朝比奈さんは頬を染めて控えめに微笑む。うむ、大変可愛らしい。

「で、君におすすめなのが…ふくれっつら、かな」
「ふくれっつら?」

笑ってすらいないような気がするんだが。

「まあ要するにちょっと拗ねたような顔をしろってこと。君に似合うと思うけど?」

確かにいきなりにっこり笑えと言われてもという話ではあるのだが。しかし、ふくれっつらなぁ…。

「とりあえず今日は基本の微笑みのマスターと女性らしい歩き方かな」
「はい、じゃあ、キョンくん、笑ってみて下さい」

えーっと…こう、か?

「駄目駄目、顔が引き攣ってる。もう一回」
「そうですよ、もっとこう、」

いやだから笑えと言われて笑えたら人間苦労しないと思うのだが。

「………、」
「ん?なが…うぎゃっ!?」

いつの間にか背後に回った長門に腹を掴まれた。そのままわきわきと手が俺をくすぐる。

「ゃ、ちょ…っ…なが、と…っ…ぁ、やめ、…ひゃ、ははははっ」

身をよじって逃げようとするものの、一筋縄ではいかず、逃げられない。

「も、いい加減にっ…あっ、くすぐった…、いっ!」
「…こんな感じ?」
「うーん、ちょっと違うかも」

何の事はない、俺を笑わせるためだったらしい。

「…そう。ごめんなさい」
「あ、いや、別に怒ってない。…ありがとな?長門」

俺は長門ににっこりと微笑む。

「そう!それ!!」
「へっ?」
「姫スマイルというのは、今の感じですよ。忘れないうちにもう一度」

今の感じで…こう?

「そうそう!なんだ、やれば出来るじゃないか」
「合格です。今の調子を保って下さいね?」
「あ、ああ…」
「…でも、」

それまで黙っていた古泉が、急に口を挟んだ。

「彼の微笑みって、滅多に見られないからこそ価値があると思いませんか?」

なんだそれは!しかし俺が突っ込む前に、

「…なるほど」
「一理ありますね」

二人ともが頷いてしまった。おいおい。

「ではやはり、ふくれっつらの方を覚えるしかありませんね」
「やり直しかぁ。ま、良いけど」

よくないよくない!もう一度やらされる身にもなってみろ!

「まあふくれっつらっていうのは、いわゆる拗ね気味の照れた顔、だね」
「照れて赤くなった頬などは、かわいいと思われる第一要因です」

俺の叫びも無視して二人は話を続ける。はいはい、どうせ俺の話なんて聞いてくれないんですよね、わかってるからもういいです。

「さ、ほら」
「って言われて出来るか!」

俺が精一杯反抗しようとしていると、古泉がにこにこ笑って近づいて来た。なんだよ。

「いえ、そんな風に照れて怒るあなたも大変可愛らしいと思いまして」
「照れてない」
「照れていらっしゃるじゃありませんか。普段笑顔を見せる事が少ないから、そうやって恥ずかしがるんでしょう?」
「別に恥ずかしがってなんかない」
「そうですか?でも、そんな風に素直じゃないあなたも大変可愛らしいですよ」
「可愛く無いしそんなふうに言われて嬉しくも無い」
「おー」
「凄いですね、古泉くん」

何がだ。

「だって君、見事に今ふくれっつらだよ?」
「ええ、照れた顔+拗ねた顔ですね」
「なっ」
「…可愛い」

長門までそんなことを言い出す。どこがだ!

「でも、ホントに可愛いです、キョンくん」

朝比奈さん、あなたのがもっと可愛いです。

「そんなに否定するなら鏡でも見てみますか?」
「いい、いらん」
「じゃあ認めて下さいよ。あなたは今照れてらっしゃるんだ、って」

言われなくても解っている。確かに俺は今、照れている。いや、別に古泉の言葉に照れたわけではなく、褒められるのに慣れてないだけだからな。

「ふふ、世間ではそういう素直じゃない方のこと、なんて言うか知ってますか?」
「知らん、知りたくも無い」

しかし古泉はにっこりと笑って俺にこういった。










「ツンデレ、ですよ」
























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