「お披露目会?」
俺はハルヒの台詞をそのまま聞き返した。今はハルヒに衣装の最終チェックだとか言われ、着付けしてもらってるところだったりする。
「そ。衣装も出来たし、姫についても詳しくなったろ?」
「まあ、大体はな」
とにかくまあ愛想を振りまくのが姫の仕事で、イベント事があればそのために授業を休んで特訓とかをする、っていう。しかしこの時期、イベント事なんかあったか?
「ない。だからやるんだろ。…ほい、おっけ」
「日時は明後日。朝から」
「あ、リハーサルは明日な」
俺が口を挟む前に長門とハルヒでどんどんと話を進めていく。おいおい、先に言えよそんな大事な事は!
「あれ、言ってなかったっけ」
「聞いとらん。…まったくお前は」
俺は仕方がないとばかりに溜息をつきながら、くるりと一回ターンしてみせる。これ、下から見えたりしないだろうな?
「それから、お披露目会は入場した後に皆さんに一言ずつ喋って頂く予定ですから、何か考えておいて下さいね」
と、喜緑さんがにっこり笑って付け足した。
「で、今日はウォーキングの最終チェックだから」
ポン、と肩を叩きながら朝倉が不敵に笑う。…スパルタなんだよな、コイツ…。
とりあえずは衣装の最終チェックとして、ハルヒたちが衣装を着た状態の俺たちをあれこれと弄り倒す。俺は髪が短いのでヅラ着用、古泉は部分的なつけ毛だ。
あーでもないこーでもないといじりつつ、
「…よし、これでいいだろ」
「うんうんっ、よく似合ってるね〜!」
予定していたヘッドドレスが消え、変わりにツインテールにされた。折角作ったのに勿体ない、とは思ったのだが、
「今度ストレートな髪型にした時にでも付ければいいだろ」
とのことらしい。
「どっかキツいとこ、あるか?」
「いや…、ないな」
「僕としては、このコルセットが少々キツいんですが」
「我慢」
長門にすっぱりと言われて古泉は苦笑していた。
「あの〜、このクラウンが結構不安定なんですけどぉ…」
「うーん、じゃあ一応ピンで固定するか」
「とりあえず明日の一番手は古泉くんで、二番手は朝比奈さん、で最後にキョン君だからね」
「コメントの方も順番でいただきます。こちらが当日の予定になります」
どんどんと話が進んで行く。めまぐるしいくらいだ。
しかし、どこか俺は充実感を感じていた。
「はー…今日も忙しかったな…」
「くたくたですよう…」
「この時期は毎年忙しいですからね」
お陰で授業も休みっぱなしだ。
そのためか、部屋に戻って出された課題をやっていたところ、詰まってしまった。元々頭はそんなにいい方ではない。仕方なく隣の古泉の部屋を訪れる。
「おい古泉、ちょっと教えて欲しいんだが――――っ!?」
ドアを開けて俺は固まってしまった。ちょっと異様な光景が広がっていたからである。古泉の顔に白い物が張り付いていた。いわゆるパックである。
「あ、いいですよ。ちょっと待って下さいね、これだけ外しますから」
「…っ」
「?」
「ぶはっ!!」
俺は盛大に吹き出していた。その後から笑いが止まらない。
「…あの、笑われても困るんですが」
「っ…ゃ、悪い悪い…っ…わかって、るんだが…!!」
笑いが止まらない。
しばらくして落ち着いた時には、すっかり腹筋が痛くなっていた。まあすぐ収まるだろうが。
「で、なんでまたそんなことしてんだよ」
「お肌の手入れですよ。姫をやるからにはそう言う所も大切にしなきゃなりませんし」
「はー…ご苦労なこった」
あなたもやってみたらどうですか、と古泉は薦めるが…俺はそこまで姫に熱中出来ん。自分の女装姿を見たって楽しく無いしな。
「というか別にこんなことしなくても十分すべすべに見えるんだがな」
「そうですか?ありがとうございます」
古泉にしろ、朝比奈さんにしろ、俺より肌が白い。それも当たり前だ。散々外で日に焼けてたタイプだからな、俺は。
「だったら尚更スキンケアすべきですよ。化粧とかされるんですから、出来るだけ肌は綺麗な方が厚化粧にならなくて済みますよ」
「げ、マジか」
化粧をするとは聞いていたが、厚化粧は勘弁したい。これからは気を付ける事にしよう。
「それで、本来のご用件は?」
「あ、ああ。すっかり忘れる所だった。この辺りがわからんから教えて欲しいんだが…」
リハーサルもどうということなく終わり、とうとう俺たちは本番を迎えていた。
(緊張します〜…)
(まあ、あまり緊張せずに行った方が失敗しなくてすみますよ)
(こういう時は手のひらに人って書いて呑み込むといいらしいですよ、朝比奈さん)
(えっと、ひと、ひと、ひと…)
『―――以上、生徒総会会議報告を終わります』
喜緑さんの静かな声が響いている。もうすぐだ。
『続きまして―――』
『みんっなお待ちかねぃ!姫のお披露目会を始めるよーっ!』
まるで放送ジャックのように鶴屋さんの声が響く。あの人はいつ見ても元気だなぁ。
みんな、盛り上がってるかーいっ!?と聞く鶴屋さんの声に応えるように、全校生徒が声を張り上げる。体育館の空気が震え、いやがうえにも緊張感が高まって行く。
『それではっ、姫のごとぉーじょーっ!!』
一斉に拍手と歓声が鳴り響く。更に鶴屋さんのアナウンスは続く。
『まずは皆さんご存知!先の三年間も姫を努めた、古泉嬢と朝比奈嬢!』
ふっ、と体育館が暗くなったかと思うと、スポットライトが二人を照らす。そして二人は真ん中へと歩いて行く。
―――次だ。
『そして今回の大本命っ!うわさのニューフェイス、キョン嬢ぉ〜っ!』
ここでぎこちなく動こうものなら後で朝倉にどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。俺は必死で緊張感を押さえ込み、観客の方に手を振ってみせる。
『さてここで、姫のお三方から皆様へ、メッセージをいただきたいと思います』
今までの白熱ぶりが嘘のように静まる。皆一字一句聞き逃すまいとしているのだろう。凄く異様な光景だというのは、思ってもいいが口に出してはならない。
『え、っと…朝比奈、みくるです。ぼくの場合はあと二年ですが、がんばりますので、どうぞよろしくお願いしますっ』
ぺこり、と朝比奈さんは頭を下げる。思わず和んでしまう姿だ。
『今期も姫を継続させて頂きました、古泉一樹です。どうぞ三年間、再びよろしくお願いします』
にこり、と古泉は微笑みながらそういう。次に、俺にマイクが回って来た。
『…えぇっと…今期から、姫をやることになりました新人です。まだ此処に馴染めてもいないし、わからないことが多いです。俺に何が出来るかも解りません。でも、選ばれた以上、俺の出来る限りでやって行きたいと思います。…あと、キョンは本名じゃないんでそこだけはよろしく』
俺たち全員が喋り終えると、再び歓声が上がり、拍手が始まる。このまま俺たちは生徒達の間を抜け、正面出入り口から去ることになっている。
『姫が通ります、お手を触れないように』
『ロープを貼るから、そこから出ないようにね』
『破ったりしたら…死刑だ』
ハルヒ、一言余計だ。
拍手に送られながら、俺たちは外へ出た。この後は撮影会をするらしい。生徒に売りさばくために。
「はぁ…き、緊張、しましたぁ…」
「俺もですよ…」
「お疲れ様でした。もうちょっとですから、頑張りましょう」
古泉に背中を押され、生徒会室に向けて歩き出す。
「…あ、そうだ」
「ん?」
古泉が何かを思い出したらしく、俺が振り返ると、古泉は満面の笑みを浮かべていた。
「これで正式に、あなたも姫の一員です。改めて、どうぞよろしくお願いしますね」
「あ、そうだった…。ぼくからも、よろしくお願いしますっ」
二人がそっと手をこちらに差し伸べる。それを握り返しながら、俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「こちらこそ、これからよろしくな」
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