「はー…風が凄かったな」
「それに結構埃っぽかったですよう」
「とりあえずこれで外の部は回りましたし、次へ行きましょうか」
ばたばたと慌ただしく会話しながら俺たちは急ぐ。
というか今回の衣装、動き辛すぎるんだよ!
「運動部は怪我するからナースとか…呆れるぜ」
お披露目会が済んで数日後、俺たちは再び生徒会室に呼び出されていた。内容は、今後の活動について。
「で、早速だけど次のお仕事だよん。喜緑ちゃん、書類」
「はい」
喜緑さんが手際良く俺たちの前に書類を置いて行く。
「えーっと…『地区予選大会』ぃ?」
「そ。もうすぐ大会だからね。大会当日を含めた期間、君たちには毎日各部に応援しにいってもらうからねっ」
「はっ!?毎日!?」
そう叫んだのは俺だけだった。朝比奈さんも古泉もやっぱり来たか…みたいな感じである。まさか、前の時もやったのか?
「ええ、まあ」
「大変でしたよ…」
些か疲れた口調で朝比奈さんが言うからには、相当大変だったんだろうということが伺い知れる。
「こちらがリストです、読み上げますと、バレー、バスケ、卓球、野球、陸上、サッカー、テニス、剣道、柔道、弓道、水泳、ブラスバンド、合唱、将棋の計14部です」
「そ、それ全部を毎日…ですか」
「決まってるじゃないか、もちろんだよっ」
はいそーですよね。
「詳しい事はこのファイルを参考にして下さい」
「僕が調べてちゃーんと傾向と対策を載せたんだから、地区大会で敗退なんて許さないよ?もちろん狙うは全国だから」
えーっと、朝倉。つまりは俺たちにこの姿を全国に晒してこいと?
「まあ地区大会は君たちは応援に行かなくても大丈夫だから」
「どういうことですか?」
「日程が重なったりして行けないだろ?だから、応援はとりあえず校内限定なのさっ。つまり、本番も応援して欲しかったら勝ち抜くしかないねってことなのさっ」
なんていう飴と鞭戦法。
「もちろん、全国まで行ったりしたらちゃあんとご褒美として君たち姫が応援しに行ってあげるんだよっ?」
ええまあ、それはもう解ってましたけど。
「…そう言えば、ハルヒは?」
「ああ、ハルにゃんなら今…」
「おっまたせー!」
ばんっ、と衣装室の扉を開け放ってハルヒがやって来た。
「じゃっじゃーん!新しい衣装だぜ〜!」
どうやらハルヒ的に会心の出来だったらしいそれは、ピンク色のナース服だった。もちろんひらひら付きの。
「かっわいーだろぉ〜?有希も結構気に入ったんだよなー?」
こくん、と長門が頷く。心無しか目がキラキラしてるぞ。
「もう三着出来てるから、この場でぱっぱと着ちゃって!」
「マジか!?」
「マジ。ほらほら早く」
こういうとき言い出したら聞かないのがハルヒだからな。…仕方がない。
どーやって着るんだこれだとかナースキャップってどう固定するんだよだとか言いながら着替える。…なあこれ、丈短く無いか?
「まあキョンのはミニだし。みくるちゃんのが通常丈で、古泉くんのはロング」
三人ならぶと見事に階段である。
「あとこれ、オプションの救急箱。ちゃんと中に消毒液やらなんやら入れたから、怪我するほど頑張ってる奴には看病してやるよーに」
「ちょっとまて、そんなんやったらエセ病人とか出てくるだろうが!」
「まあ最もな話だな」
うんうん、とハルヒは頷く。
「だーかーら、ボディーガードにオレと有希が一緒に行ってやるの。もっちろんオレたち用に服も用意したんだぜ〜」
そう言ってハルヒが取り出して来たのは、応援団用の長ランだった。はちまきつき。長門の長ランは白で、ハルヒのは黒らしい。
長門のはちまきは青、ハルヒのはちまきはオレンジである。ネクタイを外し、下を履き替えると二人は長ランを羽織る。
不覚にも、かっこいいとか思ってしまうではないか。
「地区を突破したとき用にもう一個衣装考えてあるんだぜ。応援団ときたらあとはチアガールだよな〜」
「チアは三人ともスカートの丈は同じ」
まあチアでバラバラっておかしいしな。…というか地区突破は決定事項なのか?
「あったりまえじゃん」
まあそんなこんなで各部を回っているわけなのだが…。
「正直さあ、見た目こんな格好してても男だぜ?それで嬉しいか?って思ってたんだが…」
お披露目会での歓迎ぶりそのままに歓声を上げられてしまった。野太い男の声だけどな。
「で、でもでもっ、このまま調子良くなって地区予選突破しちゃったら…全国にこの格好を披露する事になるんでしょうっ?そ、そんなのいやですよ〜」
涙目になりつつ朝比奈さんが叫ぶ。うんまあ、確かにそれはそうなんですけど…。
「そう言えば、前の時ってどうだったんだ?」
「前、ですか?そうですね、少しは突破された方もいましたけど、そんなに言うほどではありませんでしたよ」
「ほら、なら大丈夫じゃないですか?」
そう言って朝比奈さんを励まそうとしたのだが。
「けれど今年は朝倉が情報収集している」
「うぐ…」
長門、そんな一言言っちゃいけません!ああ、朝比奈さんが「あうぅ…」と沈んでしまわれた。
「事実。朝倉はとても優秀。対戦校のデータも細かく分析されている」
長門は朝倉が渡して来たファイルを見ながらそう言う。えーっと、つまり。
「予選を突破し、全国までたどり着く部は非常に多いと思う」
「さっすが朝倉!うちが有名になったらそれはそれでいいじゃん!」
ハルヒ、お前はこんな格好をしないから言えるんだよ。
「あー…ハードだったよなぁ…」
廊下でぼんやりと空を見上げつつ俺は呟いた。
昨日が地区予選その日で、俺たちは学園から出発して行く生徒たちをあのナース服で見送ったのである。もちろん、予選に出る人間の名前を一人一人読み上げて。
つまりは、今日結果が出ているはずである。
「そうでしたね。そろそろ結果が届くはずですが」
「やっぱあの格好しなくちゃなんないのか…」
それを全国に晒す可能性があるのかと思うと思わず呻かずにはいられない。
「ひとつ、いい案がありますよ」
「マジか!」
「ええ、木を隠すには森って言うじゃありませんか。生徒の皆さんに協力してもらって、大勢で応援に行けばまぎれて解らないかもしれませんよ」
「問題はどうやってそれだけの人数に動いて貰うかだよなー…」
「おい!地区予選の結果出たらしいぞ!」
飛び込んで来た声に俺と古泉はそちらに注目した。
「今回すげーぞ!バスケもバレーも勝ったし、野球もどうにか勝ったんだってよ!」
「へえ、すげーじゃんか!」
「ああ。それに陸上は大会記録出したらしいし、剣道や柔道も個人で何人かが勝ったんだってよ!」
「じゃあ後はテニスとかその辺だな、来週だっけ?」
「そうそう。うちの学校結構強かったんだな」
「ああ、実は姫が毎日応援に来てくれてたんだってよ。涼宮様に長門様も一緒に。アドバイスとか怪我の手当とかもしてもらったらしいぜ!」
「くぁーうらやましい!!」
すまん。今本人達がここにいるんだが。
「それに県大会までいかないと姫は大会に応援に来てもらえないんだもんな」
「ああ、だからどうしても応援に来て欲しくて死にもの狂いで頑張ったんだとよ」
…飴と鞭、効果絶大。
「…これって、やっぱり応援しなきゃまずいよな…。どうすんだよ…今からいっぱい人に頼んで…」
「まあ慌てたって仕方ありませんよ、それに、僕たちは姫ですよ?姫の権限と魅力を使って人を集めれば大した事ありませんって」
「そ、そうか。…よし、こうなったら早速朝比奈さんにも話して急いで人を集めようぜ」
こうして県大会までの間の抵抗が始まったのである。
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