さてまあ、慌ただしい映画撮影と文化祭が終わり、ハルヒがバンドがどうたらとか言い出したあの忌々しい日常が終わった頃。
俺にとっての悪夢が、また襲来した。

「みんな〜!いる〜?!」

バンッ!と勢い良く扉を開けて入って来たのは、もちろん団長様こと涼宮ハルヒ。…やれやれ、今度は一体何を思いついたんだか。
そんな風に余裕でいられるのも数秒のうちだった。次の瞬間には俺はお茶を盛大に吹き出していた。

「BL映画をとるわよ!!」
「ぶはっ!!!!」

咽せた。咽せながらも周りを見れば、「えぇ〜、ホントですかぁ〜」なんて大喜びしている朝比奈さん、読んでいた本から顔を上げてまでハルヒを凝視する長門、「おやおや…これは」と良いながら微笑みが二倍ほど増した古泉。駄目だこりゃ。

「ちょっと待てハルヒ!なんでまたいきなりそんな話になるんだ!」
「いきなりでもないわよ。この前だってやったじゃない、映画撮影。あれを鶴屋さんが気に入ってくれて、スポンサーになってくれるんだって。あ、もちろんBL映画に限ってね」

鶴屋さん、あなたも同類だったんですか。

「解ってると思うけど、勿論主演は古泉くん!そして相手がキョン!良いわね!」

良くないわ!…と、反論したかったんだが、このハルヒのご機嫌度を見る限り逆らえそうにない。一億光年ほど譲ってBL映画はよしとしよう。じゃああとは俺が主演にならないようにすればいい。

「ハルヒ、提案なんだが、古泉の相手は俺じゃなくて「却下。古泉くんの相手はあんたよ」

ずっぱりと切り捨てられた。しかし、俺にはまだ言えることがある。

「だが前回俺が撮影とか雑用やってたじゃないか、俺がやらなくて誰が「鶴屋さんがその辺りは用意してくれるんだって、気前良いわよね〜。それにみくるちゃんや有希もいるし」

はい終わった!この状態で断るとハルヒが何をしでかすかわからない。この秋まで過ごした時間で、ハルヒを含め団員のことはある程度理解したつもりだが…これだけ生き生きしているハルヒを静めるのはムリと言っても過言じゃない。その上朝比奈さんも、長門も前回とは違い協力的なのだ。普通一般的な男子高校生に何ができよう、いやできまい。
俺としてはにこにこと俺を見る古泉が気に入らないが…おいガチホモ、BL映画だからって調子に乗んなよ!

「酷いですね…しかしこれは、あなたが涼宮さんに報告したことに起因すると思うのですが?」

そうだった。「実は長門は宇宙人、朝比奈さんは未来人、古泉は超能力者でそれぞれ腐女子だったりガチホモだったりするんだ」なんて教えてやったんだった。
ご丁寧に最後の言葉だけ信用するなよ、ハルヒ。

「信用してないにしても、確かめてみたかったんじゃありませんか? 超能力うんぬんは別として、腐女子やガチホモの証拠は、徹底的に隠さない限りは見つけやすいでしょう」

じゃあ隠せ!今から! といっても無駄なのは解っている。長門はおおっぴらだし、朝比奈さんも今のでバレバレ、古泉も必死で拒否しない所を見るとガチホモとは判断出来ないかも知れないが、少なくとも男もいける、と判断されるに違いない。ああ悲しいかな俺の人生。頼むから巻き込むな!

「で、どうして俺なんだ」
「おや、忘れたんですか?」

何をだ、と聞くのが無駄なのは解っている。覚えてるさ、忌々しいことにな。

「だからってなんで俺なんだ」
「それはあなたが一番よく知っていらっしゃるのでは?」

ええはいそうですね、三年前の7月ですよねそうですね! 朝比奈(大)さん、恨みますよ。

「大体なんでハルヒは腐女子になったんだよ…」
「それはまあ、本人の嗜好としか言いようがないでしょうね」

と、古泉は肩を竦めてみせる。それで巻き込まれつつある俺はいい迷惑というべきなのか。

「そこ!何こそこそおしゃべりしてんの!ちゃんと聞きなさいよ!」

適当に返事を返しておいて、ハルヒの話を聞くことにする。これ以上怒らせてもいいことはないだろう。

「まずは映画の題名ね!内容はさっき言った通りBL映画!題名は…」

バンッ! とハルヒは勢い良くホワイトボードを叩いた。そこには俺たちが話している間にハルヒが書いたらしい文字で、

『ノスタルジア〜永遠〜』

とあった。なんだそりゃ。

「とりあえず今回はあえてシリアスな方向に持っていこうと思うのよね!最近の世の中は感動を求めてるとあたしは思うのよ!」

朝比奈さんには悪いが朝比奈ミクルの冒険の時のように笑いと萌えを追求したものにならなくて良かったと思うべきなのだろうか。コスプレやらなんやらはしなくて済みそうだ。

「台本はこれね!すごいでしょ、もう作ってあるのよ!撮影は明日の放課後からだから、ちゃんと読んでくること。良いわね!」

ぽん、ぽん、と団員の前に台本が置かれていく。…読むのか、これを。

「いやはや、これが文化祭の時でなくて良かったと思うべきでしょうね。主演を3つも、なんてことは僕にも出来ませんから」

そうかい、そりゃよかったな。

「じゃあ今日はこれで解散!いい、ちゃんと読むのよ!」

そういうとハルヒは勢いよく走り去っていった。…やれやれ。
長門と朝比奈さんはさっそく台本を読み、長門はひたすら無言、朝比奈さんは「おぉ〜、ふへ〜…ひょえ〜」などと奇声を上げている。…うん、台本読むのが怖いな、これ。

「では、帰りますか」
「なんでお前と帰らにゃあならんのだ、俺は一人で帰る」
「つれないですねぇ、僕としては少しでも台本合わせをした方がよろしいと思うのですが?」

確かに、ちょっと待て!なシーンがあった場合抗議はしやすくなるだろう。どうせ家帰っても一人じゃ読まんしな。つか読みたくない。
という訳で、俺は肯定とも否定とも取れる態度で鞄を掴むと部室から出た。古泉はそれを無言の肯定と受け取ったらしく、そのままついて来た。
俺は歩きながらパラパラと台本をめくり始めた。




















「――――――…」

通り過ぎる喧噪の中、古泉はじっと1つの柱を見ていた。
いや、見ているのではなく、目を、反らせないのだ。

刻まれた、二人の名前。遠い日々。

古泉はそっとそれに触れ、何かを悔いるように、目を伏せた。

(ここでテーマソング!古泉くんに歌ってもらうわよ、題名は『ノスタルジア』ね!)














なんてハルヒの指示が入った所で読むのを止めた。なんだこれは。

「歌…ですか。どんな歌になるんでしょうね」
「…お前、楽しんでないか?」
「それなりには。 ここだけ読むと主役は僕のようですね」
「そうらしいな」

それに関して異議はない。わざわざBL映画で主役なんて、気を疑われそうな役誰がやるか。
続きを読むと、「テーマソングの歌詞にあわせるように映像を撮ってそれをしばらく流す」とあった。やれやれ、一体どんな歌詞になるんだか。

「では、続きと行きましょうか」


























僕と彼が出会ったのは、二年前の五月のことだった。

「古泉一樹です、よろしく」

慣れない環境、中々馴染めないクラス。同世代との付き合いに慣れない僕は、どこかクラスで浮いていた。
けれどその出逢いは、唐突に僕に訪れた。

「転校生って、どいつ?」






















さてまあ後はお分かりだろう。俺たちSOS団で古泉とであった頃の出来事と同じようなことになる。ハルヒに連れられわけのわからん集まり(ここでは世界のための面白いこと探し隊略してSOS団となっていた。略せてないがな)に参加することになる、というものだった。
そして、そこで出会った俺に古泉が目を奪われる。その時は古泉も恋だと思わないものの、一緒に過ごすうちにますます気になり出し、恋だと自覚する。という流れの恋愛映画だった。

「流石涼宮さんですね、同時の僕の心境に近いものがあります」
「へーあっそ」

ってちょっとまて、それにもちろん一目惚れどうこうは含まれてないんだよな、そういうことにしとくからな、古泉!
気が乗らないままぱらぱらと台本をめくると、気になる一言を見つけた。

『同時放映 キョンの災難 ep.1』

ちょっと待て、なんだそれは!聞いてないぞ!

「おや…察するに朝比奈さんの時と同じような感じになるんでしょうかね」
「…つまり俺が…」

その先は言えそうになかった。コスプレだと!?誰がそんなんするか!!





しかし、そんなことを言った所でハルヒが聞かないのは明白だったのである、まる。
















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