キョン少年の災難 Episode 00
彼の名はキョン。本名ではない。どこにでもいる普通の男子高校生である。県立北高一年五組に在籍するキョンというあだ名で知られる彼とは他人のそら似だということをあらかじめ断っておく。
それはさておき、彼は現在彼女と言っても良い体になっていた。何故なのかということは作品の都合上、と監督が言っている。
とにかく彼の体は女性の体へと変化していた。元に戻る方法はただひとつ。同級生の少年、古泉イツキとキスをすること。
「そんなんできるわけねーだろ!」
「こーらー!ちゃんと真面目にやりなさーいっ!」
…監督の声が入ったのを気にしてはならない。
では、ここで彼の私生活を見てみようと思う。現在の彼は女性なので、もちろん制服は女子制服。
「きょ、キョンくん、おはようございます」
「…おはよう」
「…あ、ああ、おはよう…」
通り過ぎる生徒たちは彼が元々男性だったということをすっかり忘れていて、彼は女性として受け入れられている。
「あ、キョンくん!おはようございます」
「こ、古泉か…おはよう」
「一緒に教室まで行きましょうか」
「あ、う、うん…」
キョンに声をかけた男は古泉イツキ。彼が元に戻るための鍵となる人物である。イツキは彼に好意を抱いている節があるため、元に戻る日もそう遠くは無い。
はず、なのだが、やはり元が男性であるため、同じ性別の人間とキス、というのは抵抗があるらしく、中々一歩を踏み出せないでいる。
「…明日、何か予定ありますか?」
「え? い、いや、ないけど…」
「でしたら、僕と出掛けませんか?」
「え」
そう言われた彼は明らかに狼狽している。元に戻るためにはデートの誘いを受けるのが得策。
「え、ちょっとまて、これってデートの誘いなのか!?」
「そうですよ。…嫌、ですか?」
「や、別にそういうわけじゃ…」
「なら、良いですか?」
「あ、うん」
「ありがとうございます」
かくして彼は古泉イツキとデートをすることになり、翌日。
都合良く用意されていた女性物の腹を彼は身につけていた。
清楚なイメージを重視して、白や青が基調になった服装。勿論下はスカートで、所々にあるピンクのリボンがアクセントになっている。
「なんでこんなの着なきゃなんないんだよ…」
天の声がそう言っているから。
「そうは言うがなぁ、長門。キョン少年も元は男なんだからこういう時はパンツルックだろ普通」
そんなんじゃ面白く無い、と。
「公私混同反対!」
文句を言いながら彼はイツキとの待ち合わせ場所まで歩く。まだ5分ほど前なのだが、イツキはすでに着いていた。
「…早いな」
「いえ、別にそんなことないですよ。さっき着いたばかりですから」
「そうか? まあいい、どこに行くんだ?」
「水族館のチケットがあるんですけど、行きませんか?」
「水族館!? ちょっと待てこの格好でか…!?」
「あははっ、心配しなくても撮影のために貸し切りになってるにょろよ〜。安心して行けばいいさっ!」
「あ、そうですか…。 あ、ああ、良いぞ」
編集の都合上色々な声が入っているが気にしてはいけない。
彼らはタクシーに乗り、着いた場所は県外にある大きな水族館。ちらほらと外の客の姿も見える。
「貸し切りって言ってなかったか…?」
「エキストラだそうですよ。鶴屋さんのお知り合いだったり、僕の知り合いだったりです」
「…なるほど…」
「さて、どこから見ますか?」
「…ペンギン、とか。あとはイルカ」
「イルカはショーもやってますね。時間になったら行きましょうか。ペンギンは三種類いるみたいですよ。あとはカワウソやジンベエザメも居ますね」
「へぇ…さすが有名どころ。じっくり見て回ろうぜ」
子どものようにはしゃぎ回る彼を、イツキは微笑ましそうに眺めている。
そのまま延々と水族館を歩き回り、夕方。そろそろ帰らなければ、ということで二人は水族館を出ていた。
「サンキュ、楽しかった」
「いえ、僕も楽しかったですから。誘って良かったと思いますよ」
「そうか」
タクシーが来るまでの間、のんびりと歩く二人。夕日に照らされる彼の横顔をイツキは眺めている。
「…キョンくん」
「ん?」
何気なく振り返った彼は、イツキの真剣な顔を目にして息を呑む。
「…僕は、君が好きです。たとえその姿が本当の君じゃないのだとしても」
「え、何、を…っ!?」
気がついた時には唇が触れていて、彼は目を見開く。間近にあるイツキの顔を呆然と眺めていると、やがて唇が離れた。
「…すみません。今日はこれで。また、明日」
正気に戻った時にはイツキはおらず、彼はいつの間にかタクシーに乗せられ、家に送られていた。ふと気がついて確かめると、元の体に戻っている。
喜び半分と、戸惑い半分。イツキの真意が解らず、彼は眠れない夜を過ごした。
翌朝、もちろん彼は男子制服で登校している。
「よぉキョン、はよーっす」
「キョン、おはよう」
「ああ…おはよう」
通り過ぎるクラスメイトに返事をしつつ、彼はキョロキョロと誰かの姿を探していた。
「あ、おはようございます、キョンくん」
「…!」
後ろから聞こえた目的の人物の声に、彼は勢い良く振り返った。
「…なあ、古泉」
「はい?」
にこりと笑うイツキ。キョンは昨日のことを聞くことが出来ず、「いや…やっぱなんでもない」、と歩き出す。
「ふふ、ねえ、キョンくん」
隣にならんだイツキが、彼の耳に唇を寄せる。
「昨日の答え、待ってますから」
「!」
彼が思わずイツキの方を見ると、イツキは相変わらず笑っていた。「それじゃ」と言うと先に校舎へと歩いて行く。
「……どうすんだよ、これ」
赤くなった顔を隠すように、思わず彼は空を仰ぎ見た。
エンディングテーマが流れ始め、スタッフロールが流れる。曲はハルヒ作詞作曲の下、俺が歌わされた曲であり、「倦怠ライフ・リターンズ!」という。ハルヒにしては珍しく俺の心情をかなり捉えた曲だった。
「どお!?かんっっっぺきな出来じゃない!」
「わぁ、凄く素敵ですねー」
朝比奈さん、うっとりとしながら言わないで下さい。そこ!長門も凄い勢いで頷かない!
「いやあ、あの時のあなたも、大変可愛らしかったですよ」
古泉、お前は黙ってろ。永遠にな!
「スポンサーとしてもバッチリ満足さっ、やっぱりハルにゃんの作品はいいねぇー!」
お願いですからもうスポンサーは止めて下さい、鶴屋さん…!
頼むから、俺の日常を壊すな!
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