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携帯の音が響いて、僕は飛び起きた。と言っても、それほど深い眠りについていたわけではない。
此処の所、毎日のように夜に呼び出される。我々の神は悪夢でも見続けているのだろうか。お陰で眠る暇もない。まあどうせすぐ転校する事になる、と機関は言っていたので、少々学校で居眠りしようが構わない。真面目な優等生を演じるべきは、北高、つまり神の近くに行ってからでいいのだから。
外に出れば既に新川さんが待っていた。車に乗り込み、閉鎖空間の発生場所へと急ぐ。僕がついたころには、もう既に同士達が集まっていた。

…さて、急がなければ。

新川さんにお礼を言うと、僕はすぐに力を解放して、神人へと躍りかかった。最初のうちは体当たりなどを繰り返し、無駄に見えるほど小さな攻撃を続けるしかない。こんな能力があるのなら、一発で倒してしまえれば良いのに、と何度も思う。まあヒーロー物でもあっさり勝ってしまえばつまらないだろう。そのあたり、やはり神もまだまだ子どもなのだ、と思う。僕より、ずっと。
今回は彼女のイライラは最大限に達しているらしい。神人は中々倒れないし、閉鎖空間も広がりつつある。まずい。そうは思うけれどこちらも手いっぱいで、別の事に気を取られようものなら死傷者も出かねない。

そんな時だったと思う。ふいに、目の端に小さな人影が映った。
何故、こんなところに?新川さんではないだろう。機関の人間でもないと思う。これ以上人数はいないはずだし、何より上が増員を送ってくるとは思えないからだ。その人影は、高層ビルの屋上に経っていた。
おそらく男、だと思う。小さくて解り難いが、髪は短いようだ。そして、着ている物も男物だと思う。

ふいに、彼が指で拳銃の形をつくり、神人に向かって、それを撃つ素振りをした。一体、何を?

そう思ったのも一瞬だった。次の瞬間には、神人の頭は破裂したように吹き飛んでいた。驚きは隠せないが、この一瞬を見逃す訳にもいかない。すぐに神人の腕や胴体を切り裂くために動く。

すっかり神人を倒し終わった頃には、その人物は消えていた。










思えばこの時からだったと思う。閉鎖空間の発生がゆるやかになったのは。
いや、閉鎖空間は確かに発生する。しかし、広がる前に殆どが消失していくのだ。まるで、誰かがそれを消しているように、唐突に。
そして何より気にかかるのは、僕以外誰もあの人影を見ていない、ということなのだ。何も知らない同士の一部は、神のイライラが静まって、神人も弱体化したんじゃないか、なんて言う人も居た。
そんな風にしているうちに、僕の転校が決まり、北高へ行く事になった。中学から一緒の友人も、前の高校にはいたのだが、どうせうわべの付き合いだ、別段と思う事もない。
機関の予想していた通り、神はすぐさま僕の転校生という属性に食いついた。そしてその日のうちに彼女の作ったSOS団という所へ連れて行かれた。
そこには資料通り、TFEI端末である長門有希、未来人である朝比奈みくる、そして神に選ばれた鍵とも言える彼がいた。知ってはいた。いたのだが…。
正直、写真で見るのと実際目にするのとでは違ったらしい。何故ならば、その彼に僕は見覚えがある気がしたのだ。そう、丁度あの閉鎖空間で見たあの人物と。
驚く僕を他所に、彼は何でも無い顔をしている。それどころか若干睨まれているのは気のせいだろうか。機関で訓練されていなければ、顔に出ていたに違いない。
よろしく、となんでもない風に握手を求めると、何とも言えないような態度で手を握り返して来た。とりあえず、彼はどこまで知っていると言うのか。

数日、普通の学生として過ごしてみたが、神にも、彼にも、なんら変化はない。どうも長門さんや朝比奈さんは彼にアプローチをかけていたようだが。さて、そろそろ…
そう思っていた所、彼の方から声がかかった。

「お前も、俺に何か話すべき事があるんじゃないのか」

その言葉に、僕は笑った。
中庭に移動し、あらかたのことは話だのだが、彼に変化はない。やはり、閉鎖空間にいたと思ったのは勘違いだったのだろうか。
それでもなんとなく、聞かずにはいられなかった。

「あなた、僕に会った事ありませんか?少し前に」

聞いてから、しまった、と思った。怪訝な顔をするに違いない。そう思ったのだが。

「…さぁな。忘れた」

そう言って彼は立ち去った。忘れた? 彼が言葉を濁したことへの違和感と、そしてその時の表情が気になり、僕の頭から離れなかった。

それからも、閉鎖空間は発生した。けれど今までと違い、収束するのが早い。そしてその度に、僕はあの人影を見るのだ。
その人影はやはり視界を掠める程度で、それが彼だと確信できない。彼が現れるのは決まって夜で、彼がくる度に神人の一部が弾け飛んだり、動きが鈍くなったりする。誰もそれに気がつかない。そう、僕だけが。
長門さんに聞こうかと思った時もあった。情報統合思念体ならば、知っている事もあるかも知れないと。だが、統合思念体でも閉鎖空間には割り込めない。そう出来ているのだから。ならば、おそらくは聞いても無駄だ。
彼の事なら、と考えたりもしたが、やはりこちらも解る事ではないだろう。何しろ昼間の彼は、そう言った素振りを見せないのだから。

そうこうしているうちに、朝倉涼子の姿が消えた。どうやら現状を変えるために先走りしたらしい。そして、長門さんに消されたのだろう。
朝倉涼子が消えたと報告を受けた後、長門さんに会った。廊下で少しすれ違った程度だったが。

「…涼宮ハルヒは今日は部室に来ない」
「そうですか、ありがとうございます」
「…彼は―――――」

長門さんの瞳が何か言いたげに揺れていた。しかし、彼女はそこで言葉を止めた。

「彼が、どうかしたのですか?」
「…あなたもすぐに解る」

そうとだけ言って、彼女は立ち去った。









そして放課後、僕は彼の元を訪れていた。閉鎖空間が発生しそうな気配を感じ取ったからだ。
僕が声をかける前に、彼は振り返った。

「超能力者としての証拠を、見せてくれるんだろう?」

そう言って不敵に笑った彼は、僕がよく知っている彼と似ているようで、似ていなかった。

「説明はいい。わかってるから」

彼はそうとだけいうと、静かに目を閉じた。しばらくの間沈黙が続く。わかっている?どういうことなのだろう。
いや、予想だけなら出来る。しかし、まさか、という気持ちがある。だが、そうでなければ説明がつかない事が多過ぎる。

「着いたな」

彼が再び静かに目を開ける。二人が車を降りると、新川さんは静かに走り去って行った。

「…手」
「え?」
「そうしなきゃ入れんだろうが。だから、手」

戸惑う僕を他所に、彼は強引に僕の手を取り、目を閉じた。戸惑っている暇はない。僕は彼の手を引くと歩き出した。少しだけ引っかかるような感覚があり、薄い膜のようなものを通り抜けて入り込む。
同時に、他の同士達が入って来たのも感覚で解った。彼が瞳を開け、勝手にずんずんとビルの屋上へと進んで行く。

「…来る」

彼が呟くのと同時に、神人が出現した。

「ほら、行ってこいよ、大人しく待っていてやるから」

彼に促されるまでもない。僕は集中すると能力を解放し、神人の元へと急ぐ。生まれでたばかりだというのに、神人は既に弱体化していた。今回は最初から切り刻みにかかる。僕が腕を落としたのを見て、同士達も同じ行動にでた。神人はすぐに見る影もなくなり、崩れ落ちる。

「…やはり、あなただったんですか」
「さて、なんのことやら」
「とぼけないで下さい。僕は見ていたんですよ、あなたがこうして閉鎖空間に度々現れていたのを」

そう指摘すると、彼は肩を竦めた。

「昼間の俺には言うなよ。咄嗟に俺が出て記憶を改変しても良いが、面倒なんだ」
「では、やはり…」

僕が確信していると、彼はにやりと笑った。

「まあお前達で言う、神になるわけだ」






























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