その日はまあ、いつもと同じなんでもない日だったんだとおもう。
見るだけで嫌になりそうな坂道も、その上の学校も、同じクラスの同級生も、朝っぱらからやたらと騒がしいハルヒも。
だからこれは、多分ハルヒが望んだことではないのだと思う。
だとして、だ。
どうして俺が今こんな状況なのか、分かる人間がいたら是非俺に教えてもらいたいね。
いつもの通りの放課後。帰省本能のようにSOS団本部…もとい、文芸部部室の部屋をノックした俺は面食らった。
「どうぞ」
「なんだ、お前だけなのか」
そこにいたのは文学少女宇宙人でも、癒しのお茶汲みメイド未来人でも、台風の中心他称神様でもなく、
「ええ、僕だけですよ」
スマイルイエスマン超能力者、古泉一樹だった。
「ハルヒたちは?」
「朝比奈さんの新しい衣装を三人で見に行きましたよ。鞄も持っていきましたから、戻って来ないでしょうね」
「…で、お前は俺にそれを知らせようと残ってたわけだ」
わざわざご苦労様なこった。
「それで、どうします?」
「…何がだ」
「このまま帰るのか、それとも暇をつぶしていきますか?」
そう言って古泉が指し示すのはオセロ。それにも大分飽きたんだがな。誰かさんが弱すぎるもんで。
…まあ、どれだけ待ってたのかは知らんが、ご丁寧に待ってくれてわけだしな。一局ぐらい打ってやるか。
「…ハンデはつけてやるよ。そのくらいないと手応えないしな」
「おや、これは手厳しいですね」
そう肩を竦めてみせるが、どこか嬉しそうにして見えるのは気のせいじゃないだろう、多分。
会話の無いまま、黒い石で盤上が埋まっていく。あれだけハンデをくれてやってこれだ。当分オセロもやるまい。
パチン…、パチン…と静かに音が響いている。普段ならこれにあと3つは音があるんだが、たまにならこんな静けさも悪くはないだろうな。いつもが騒がしすぎる所為でなんか落ち着かないが。
「そういえば…」
「ん?」
盤上から目を離さないまま古泉の声を聞く。しかし次の一言に、思わず俺は手にした石をポロリと落とした。
「あなたは一人でシたこと、ありますか?」
「…は?」
思わず聞き返す。かなり間抜けな声だったかもしれん。
「ですから、マスターべ「それ以上言わんでいい!」
余計なことを言い出す前に古泉の言葉を遮る。一体なんでまたそんな話を。多分今俺の顔は紅いに違いない。
しかしあいつはさらりと「女性陣のいない今だからこそ、の話題だと思いますけどね」、と答えやがった。にやにや笑うな気持ちわるい。
「…まあ、男だしな」
って俺もなんでそんな正直に答えてんのかね。無視すりゃ良いだろうに、まったく。
「でもあなたのことだからそんなに頻度はないんでしょうね」
「…まあな」
俺ぐらいの歳ならそれなりに興味がわくんだろうが、俺は淡白な部類らしい。そういう本も持ってないし、もちろんAVも見たことはない。(大体んなもん妹が勝手に荒らすあの部屋に置いとけるものか、という話だ)
一人でするのも…なんだ、ほら、溜まると病気になるからとかそんなもんだ。朝比奈さんを見てそんなやましい妄想を抱くことも、まあ男だからまったくないとは言えないが、ほぼない。
「あなたはそういうタイプだと思いましたよ」
そうか、俺はお前がそういう下ネタ好きとは思わなかったがね。人格を作らないお前はそんな感じなのか?
「いえ、女性陣がいては出来ない話ですし、わざわざ振るような話題でもないでしょう?」
ま、確かに二人で話すことは大抵ハルヒがなんかやらかす時だからな。
「でしょう?ですから、なんの話題もないんですし、高校生らしい会話でもどうかと」
お前の中の高校生らしい会話の基準はどうなってるんだ一体。
確かに高校生なんてそんなもんかもしれんがな、問題はなんでお前とこんな話をしてるんだ、ってことだ。谷口あたりならわからんでもないんだが。
そう口にすると古泉は明らかに気分を害したらしく、眉根を寄せている。
「あ、いや…お前にそんなイメージがないってだけだ。悪いな」
「いえ、気にしてませんから」
なら明らかに分かるような顔をするなよ、とは言わないでおく。
「そういうお前こそ、一人でやらんでもよりどりみどりだろ」
「残念ながらそうでもありませんよ、確かに誘われることもありますが…」
なんだそれは、俺への嫌味か。
「それは失礼しました。そんなつもりはないんですけどね」
と、古泉は肩をすくめてみせる。
「好きでもない上知り合いでもなんでもない方と行為に及ぶ気なんてまったくないんですよ、機関のこともありますし」
「ま、そりゃそうだよな」
当然と言えば当然だ。今古泉の一番はハルヒに違いないのだから。
「さて、話を戻しましょうか」
どこへ?ととぼけてみせるが無駄だろう。ったく、なんでお前はそんなこと気にしてんだよ。
「月に一回くらいですか?」
「…まあ大体な」
それより多い時もたまにはある。が、いまいち自分でもどのくらいの頻度が良いのかわからん。あれって1日にどのくらいの量が作られるんだったか?
「1億個くらいらしいですよ。思春期が一番生産が活発なんだとか。ただ使わなければ衰えて行くだけみたいですけど」
「はっ?マジか!?」
といっても小さい妹がいる以上、教育的にも、俺の心情的にもよろしくない。どうしろっつーんだ、おい。
「こまめに抜くほうが健康には良いそうですよ」
「…抜くってなあ…」
生々しい。
「今も結構溜まってるんじゃないですか?」
「…まあ、そうなんじゃないか…?」
しどろもどろで答えるしかない。そんなの自分で分かるものなのか?
「自分でするのに抵抗があるなら、お手伝いしましょうか」
「…………は?」
思わず聞き返す。今、なんつった?
「ですから、お手伝いして差し上げようかと」
「はぁっ!?」
驚きすぎて椅子からずり落ちる。腰をしたたか打ってしまった。
おい古泉、気でも狂ったか?
「いえ、僕はほどほどに正気ですよ」
なお悪いじゃないか。つまりは本気で言っているんだろうが。
「まあ、そうですね」
そう言いながら近づいてくる。じりじりと座り込んだまま後ろに下がるが、すぐに壁に背が当たった。まずい、逃げ場がない。
「っ…古泉、いい加減に…!」
「男子校とかじゃよくやることですよ、そんなに怯えなくてもいいじゃないですか。まるで僕が君をいじめてるみたいだ」
男子校が一概にそうとは言えないだろ怯えてないまったく怯えてないいじめてるみたいじゃなくてもそれに近いもんがあるだろ!
…なんてわけのわからん叫びが頭の中を行き交う。その間にも古泉はすぐ傍まで来ていた。
確かに一人でやるのは抵抗があるが、だからといって手伝って欲しいわけじゃない!
しかし古泉はそんな俺の声すら無視して無情にもベルトに手をかける。
「っ…まてまてまてまてっ!」
慌てて古泉の手を押さえるが、古泉は笑みを崩さないまま俺のベルトを外しやがった。なんで止まらないんだよ!
「古泉、やめろって…!」
「そういう割にはあまり抵抗してないじゃないですか」
精一杯抵抗はしている!ただ蛇に睨まれた蛙みたいに動けんだけだ!
「大丈夫ですよ、痛いことなんてありませんから」
当たり前だ!痛くてたまるか!
しかし今の古泉の口調を聞くとなんだか自分が注射が嫌で癇癪を起こす子どものように思えてくるじゃないか。忌々しい。
ついにはジッパーまで降ろされた。頭が混乱し過ぎてどうしていいかわからなくなってきた。
古泉を跳ね退けるため突っ張っている腕すら、驚くほどに弱々しい。どうしたんだ、俺。
「キョンくん」
「…っ」
耳元で名前を呼ばれた。ぞわりと総毛立つ。だがそれは気持ちわるいと思ったからじゃないような気がした。なんだ?
「っぁ!?」
気を逸らした一瞬に、下着の上からそこをなぞられた。 ただそれだけなのに僅かな電流が流れたようにびくりと身体が震えた。明らかに、自分でやるときとは違う。恐怖と、興奮が入り混じった感覚。
俺の反応を確かめるように古泉はゆるゆるとそこを刺激する。俺はその感覚を目をきつく閉じて耐えるしかない。
「っ…ふ、…」
「声、出していいんですよ?」
「っな、…うあっ!?」
俺が口を開いたタイミングを見計らってか、古泉が半勃ちになったそこに直接触れてきた。思わず声が裏返った。
そのまま直接扱きあげられると、否応なしにそこは勃ち上がった。生理現象だ、仕方ないだろ!
誰に言い訳するでもなく心の中でぼやくが、それでどうにかなるわけじゃない。声を出すまいと耐えるのが精一杯だ。
「んっ、ふ…は、…っ」
唇を噛み締めても、吐息のような声が漏れる。息をつめすぎて酸欠になりそうだ。
ぐちゅぐちゅと先走りのせいで聞きたくもないような音まで聞こえてきた。
「ああ…そんなに唇を噛んじゃ駄目ですよ、唇が切れますよ」
一体誰のせいだ!と言ってやりたかったがそれは叶わなかった。古泉が無理矢理口に指を突っ込んだからだ。
一瞬噛んでやろうかと思ったが、歯形がついた指なんて洒落にならん。言い訳すら思いつかんぞ。
お蔭で俺は聞きたくも無かった自分のあられもない声を聞くことになる。今なら羞恥で死ねそうだ。
「んんっ、ひ、ぁ…ぁ、あ…っ」
「ふふ、随分可愛らしい声ですね」
可愛くない、断じて可愛くない!なんなんだこの声は!絶対に俺の声じゃないだろ、おい!
「っ、あぁ…っく、は…っ」
意味のない言葉の羅列が口から零れる。飲み込めない唾液が溢れ、口に突っ込んでない指で古泉がそれを拭った。
古泉の長い人差し指が舌をくすぐるように撫でる。また、ぞわりとした。
「っん、は、ぅ…ひ、ぃあ…っ、ぁ、あ…っ」
「気持ちいいですか?」
感じすぎて気持ちいいのかなんなのかわからなくなってきた。少し強めに亀頭をいじられると、びくりと身体がはねあがった。
「ぃ、あ、ぁ…ゃ、も…っ…で、るっ」
口をついてでたのはそんな言葉だった。頭が回らない。目の前がチカチカする。
「イっていいですよ」
「っ…ぁああぁっ…、」
痛いくらいに強く刺激されて頭が真っ白になり、気が付いたら白濁とした液体を吐き出していた。
用意周到なことにいつの間にか取り出したティッシュによってそれは受け止められ、床も制服も大して汚さずにすんでいる。
俺はと言えば頭が冷静になり赤くなるやら青くなるやら、だ。
「っ…古泉、お前な…!」
「すっきりしたんじゃないですか?」
「確かにそれはあるがな…!」
「ご自分でするときより、気持ちよかったでしょう?」
「っ…」
言い返せないのはこいつがいきなり耳元で囁くからだ。断じて図星だからじゃない!
「良かったらまた言って下さいね。僕で宜しければいつでもお手伝いしますから」
「そういうのじゃなくてだな…!」
「自分一人が嫌だと仰るなら今度は擦り合いっこでも良いですし、ね」
なんなんだその語尾に含みのある言い方は!
「いらん!断じていらん!俺は帰る!」
制服の乱れをざっと直し、鞄を引っ掴んで足早に部室を出た。
とりあえず今は帰りに知り合いに会わないことを祈りたい。
ああもう、本当に最悪だ!
だが、この出来事はほんの始まりでしかなかったわけだ。
忌々しいことにな。
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