あれから、明らかに俺はおかしい。




多分そう感じているのは俺くらいのものだろう。他の連中には気付かれもしていないと思う。というか、気付かれていたなら俺は今すぐ学校の屋上から飛び降りて死ねるね。

あれ、というのは…まあ、なんだ。古泉との思い出すのも忌々しい一件のことである。だが更に忌々しいことになっていた。
察しの良い方はもうお分かりかも知れない。そう、俺は。

一人ですることに、満足感が得られなくなっていたのだ。

たしかにあれはやった後、罪悪感を覚える。まあ人間の心理としては当然と言えるものかもしれない。ただ今まではそれでもスッキリするもんだった。
けれど。
おいおいどうしたんだよ俺。偶然見ちまった朝比奈さんの着替え姿より、どうしてあの時の古泉の動きを思い出す方が興奮するんだ!?
ただ恐る恐るその動きをなぞるように自分で扱いてみても、あの時のような快感は生まれなかった。本当にどうしちまったんだよ俺!

と、言う訳で。

不本意ながらも若さ故の過ちと言うことで、あの時の古泉の申し出を受けることにした。あの時の申し出、というのはもちろん、「僕でよければいつでもお手伝いを」、という奴だ。
ほら、あいつも言っていたじゃないか、男子校ならよくあること。同じ体の構造をしている以上、お互いに良い場所がわかりやすい。このくらいのこと普通にやってもおかしくない。うん。多分。

なんて自分を誤摩化すが、やろうとしていることはちょっと、いや、かなりホモくさい。いや、こういう言い方は差別だったよな。ゲイ、と言えば良いのか。厳密に言えば俺はゲイではない。完璧なノーマルだ。少なくとも男に対してやましい気持ちを抱いたことなど欠片もない。古泉?あいつがどうなのかは知らんが、女が駄目、ということはないだろうとおもう。バイ、ならありえそうで嫌だが。

ただ、ここで1つ問題が発生する。どうやってそれを古泉に言い出すか、だ。口が裂けても言いたくはないが、このまま性欲を持て余すのも、精神的によろしくない。二人だけになるタイミングはいくらでもあるが、言い出すきっかけがない。「やろうぜ」…駄目だ、俺が頭のおかしい色情魔みたいじゃないか。
ただこうしていつまでも古泉を引き止めておく訳にもいかない。そろそろハルヒが煩い頃だろう。閉鎖空間なんてモノを発生させられれば、困るのは古泉であり、俺でもある。だから。


「…お前の家、行っても良いか?」


そう伝えるので精一杯だった俺を、誰が責められるだろう。
そのあといつも通り五人並んで帰り、途中三人と別れた俺は連れられるまま古泉の後ろを歩いていた。ノそういえば、初めてなんじゃないか?こいつの家に行くのは。
多分古泉のことだから、生活感のまったくないような部屋なんじゃないかと思う。長門の部屋よりはあるかもしれないが。同じように高級マンションに違いない。
しばらく歩いた先にあったのは、やはり予想したような場所だった。なんというか、これもやはりハルヒのイメージ通りなのだろうか。少なくとも三年前までこんな風な所にはいなかっただろうに。
朝比奈さんも、長門も、そして古泉も。どうしてこうそろいもそろって一人暮らしなのか。まあ、ハルヒに関わる以上仕方ないのだろうが。

「何もない所ですが、どうぞ」

まあこれも予想通りと言うかなんというか、古泉の部屋にはある程度家具家電があり、センスのいい作りをしてはいるが、何もなかった。本当にここで生活しているのか?という感じだ。長門の部屋でさえ本や急須があったというのに。
あたりを見る限り、何もない。本も、食器も、ない。申し訳程度に古泉の服や鞄が置いてある程度で、何度も言うが本当に何もないのだ。お前は宿に泊まりに来た観光客かよ。

「面倒なので、食器とかは買ってないんですよ、だから缶ですみません。コーヒーとお茶、どっちが良いですか?」
「…コーヒー」

適当な所に座って下さい、と言って古泉は冷蔵庫をあける。ちらっと覗き見れば、見事に食材なんてなかった。おいおい、まさかコンビニ弁当とか、外に食いに行ってる、って奴なのか?
よくそれで栄養管理が出来るな、なんて幼い妹が家にいる俺は思う。両親が家にいないことが多いせいか、自然と自分で料理するようになっちまったしな。

「それで、どうして今日は僕の家に行きたい、だなんて?」

いつもより若干にやけたような顔を俺に向けるな、気色悪い。本当は分かってるんじゃないのか。そんな顔をしているような気がするぞ。

「いえいえ、何事も口に出して頂けないことにはわかりませんから」

正論である。正論ではあるが…憎たらしい。どうしても俺から言わせたいらしい。悪趣味な上に変態だ。間違いなく。

「そ、の…だな、折り入って、頼みが…ある」
「はい、なんでしょう」

こういう場合なんて言えば良いんだ?オナニーを手伝え?いや、頼む時点でオナニーではない気がする。ええい、忌々しい!自分でも何が言いたいのか分からなくなって来た。
そうして俺の口から出た言葉は、

「その…俺と、してくれないか」

だった。何をだ!何を!!
しかしまあそれに対する古泉の答えといえば、

「どこまでですか?」

である。一体どういう意味だ?何を、じゃなくてどこまでってなんなんだ!?
自分の失態さえ忘れてあっけにとられる俺に、古泉もようやく自分の発した言葉の意味に気がついたらしい。「そうか、君がそんなこと言い出す訳が無い。すみません、僕の失言ですからどうぞお気になさらずに」、と言ってのけた。俺はと言えばそろそろ後悔し始めている。何を、と聞かれても困るが、どこまで、なんて聞かれたんだぞ。あの先にまだ何かあるのか!?そしてお前はそれを望んでるっていうのかよ古泉!お前はそうかもしれんが俺はあくまでもノーマルだ、ノーマル!

「まあ先ほどのことはおいておくとして…良いですよ。お手伝いいたしましょう」

やけにあっさり頷くな。やっぱり分かってたんだろうが、俺が何を言いたかったのか。「さて、なんのことでしょう?」なんてとぼけても無駄だ。

「とりあえずやるんですか?やらないんですか?」
「だから平気でそういうこと言うな!生々しいだろ」
「ですが確認しないことには、ね」

俺は溜め息をついてから、「…やる」と一言だけ返した。ただ俺だけが翻弄されてるのもムカつくからな、今回は俺もやってやろうじゃないか。男の意地だ。
そう提案すると古泉は少しだけ驚いたような反応を見せたが、すぐにいつものようなノいや、いつもよりは生き生きしてるのか?まあとにかくそんな笑顔に戻る。

「では、お願いしますよ」

くそ、余裕綽々じゃないか、忌々しい。古泉が近づいて来て、俺のベルトを外す。俺も同じように、心無しか震える手を抑えるように古泉のベルトを外した。
じぃー、っと同時にファスナーを降ろす。初めて触れる他人のそれは、存外熱いものだと思った。ゆっくりとお互いのモノを下着から取り出す。…古泉の方が少々大きいだろうか。ついつい比べてしまうのは男の性というものだろう。何しろ沽券に関わるからな。
ゆっくりと古泉が俺のを扱き出す。俺も同じように、恐る恐る自分でするように手を動かした。俺の方が手つきがたどたどしいのは、経験の差か。って、なんのだよ、おい。

「っ…ふ」

堪えようとしても声は洩れていくもので、今回は周りに聞かれる心配はないんだろうが、だからと言って自分の声を聞くというのはなんとも嫌な感じである。前みたいに唇を噛めば、強制的に声を出させられるだろう。
ツゥ…っと触るか触らないかぐらいで裏筋をなぞられると、びくりと体が震えた。

悔しい。やっぱり俺ばかりが翻弄されている気がする。俺の手の中の古泉のモノも硬くなって来てはいるが、まだまだ余裕らしい。笑みがまったく崩れない。男として情けなくないか、俺。

「ん、っ…ふ、あ…ぅ…く、」
「ほら、手が疎かになってますよ」

言われてかぁ…っと顔が赤くなっていくのが分かった。俺から言い出しておいて、このざまだ。大体古泉、なんでお前はそんなに慣れてるんだよ!まさか機関ってそんな連中ばっかりじゃないだろうな!
ノなどと聞ける訳も無い。ヘタに口を開けばあられも無い声が出るに違いないからだ。
反論も出来ないまま精一杯手を動かすが、どうしても与えられる快楽の方へ反応してしまう。それを理解したのか、古泉は急速に手を緩めた。

「やるって言い出したのはあなたなんですから、責任はとってくれますよね?」
「うぐ…」

そう言われてしまうと反論も出来ない。少しは余裕も出て来たし、とりあえず言う通り手を動かしてみる。自分でも覚束無い手つきだと思うのだが、それでも古泉は一応の所感じてるらしい。じわじわと先走りが染み出してくる。

「僕が一回イく間に、キョンくんは二回ぐらいイっちゃいそうですね」
「、なっ…そんなことあるわけ…うぁっ!」

反論しようとした矢先、ぐり、っと強く鈴口をいじられ、あられもない声があがる。

「なら、試してみますか?」

そういって笑う顔は、俺の知る限り今までで一番凶悪だった気がする。
古泉は何を思ったのか、シャツのボタンを外し、手を潜り込ませて来た。

「な、にを…う、ぁ…っ」

こともあろうか古泉は俺の乳首を指でこねくり回して来た。擦れて痛い。何のつもりなんだ!女じゃないんだ、そんな所で感じる訳が…

「っ…んぁ、う…っ」

あったみたいだな、どうも。きゅっ、と指で軽く摘むようにして刺激されると、否応無しに下半身直結で快楽を感じてしまった。

「思った通り、キョンくんは感じやすいんですね。耳も…弱いんじゃないですか?」
「っ…息、を…吹きかける、な…う、ぁ、あ…っ、な、舐めん、なっ…!」

ねっとりと耳を舐め上げられ、その上甘噛みされた。悔しいことに、それさえも気持ちがいいと感じてしまう自分がいる。
乳首を弄っていた指が、口元まで持って来られる。…なんだよ、舐めろって言いたいのか?仕方なく口を開くと、指が押し込まれ、舌をくすぐる。ややあって抜かれた指が、再び胸を愛撫し始める。今度は指でつぶすようにこねられても痛くなかった。なるほど、ローション替わりか、なんて冷静に考えてる場合でもないだろう。

「ん、ふ…あ、ぁ…っ…ひ、ぃあ…ぅ…っ」

三カ所を同時に攻められ、俺の手は完全に動きを止めていた。これじゃ古泉の思う通りじゃないか。やられっぱなしなのも癪に障るのでどうにか俺も手の動きを再開する。少しだけ古泉は驚いたようだったが、またすぐ余裕の笑みに戻る。
首筋をつぅ…っと歯でなぞられる。ぞくぞくとした感覚が体を走り、「ふ…ぅ」と声を漏らす。真面目にどうにかならんのか、自分の声って言う奴は。

「っ…そろそろ、限界なんじゃないですか?」

俺の手の中で古泉のものも完全に硬くなっている為か、少々息が荒くなっている。してやったり、なんてほんの少しだけ思うが、俺はそれ以上に息が乱れている。誇れることじゃないな、うん。
だが古泉の言うことに素直に頷けるわけない。確かに、そろそろ限界なんだが。言葉にしたら死にたくなる。というか死ねるんじゃないか?
しかし、古泉はそんな俺の心情など無視しやがった。

「う゛ぁ…っ!」

溜まった熱をせき止めるように根元をきゅ、っと抑えられた。なんのつもりだ古泉!

「な、に…しや、が…っ」
「ねぇ、キョンくん」

にっこりと、あいつは笑って、耳元に口を寄せた。

「言って下さい。イきたいのなら」
「っ…!?」

…古泉、つくづく思うんだが…。

「っ、の…へん、たい…!」
「ふふっ、その変態にいいようにされてるのはどなたですか?」

俺ですね。忌々しいことに反論のしようがない。しかも!今回のこれは俺が言い出したことであって…穴があったら入りたい。んでそこで一生暮らすね、俺は。
なんて考えても熱が逃げてくれる訳は無いのだ。…言うしか、ないのか?

「っ…、…ぃ…」

意を決して口を開くが、羞恥心が邪魔をして言葉にならない。そんな俺をみて古泉が焦れたのか、根元はせき止めたまま、鈴口を指でぐり、っと刺激された。

「う、ぁあっ、く…は…っ」
「ほら、早く言わないとこのままですよ?」

ドがつくSなんじゃないだろうか、こいつは。
とはいえそんなことを言っていてどうにかなる訳でもない。仕方なく俺は再び口を開く。

「い、かせ…て、くれ…っ」
「ふふっ、よくできました」

先生や親が子供を褒めるような優しい声色でそう言うと、古泉はせき止めていた指を外し、最後の刺激を俺に与えた。

「ん、ぅ…ぁ、あぁあっ…!」

ぎりぎりと言っていいほどせき止められたそれは、勢い良く白濁とした液を放った。おかげで少々服や顔にかかってしまった。…最悪だ。
しかし古泉のそれはまだ硬さを保ったままだ。余裕の表情に見えるが、辛くないのか?…仕方がない、中途半端が辛いのは同じ男としてよくわかる。
しぶしぶながらも再び俺は古泉のそれに手を添え直した。

「っ…キョン、くん?」
「中途半端、…辛いだろ、だから」

聞こえるか聞こえないか、そんな声だったかも知れない。ただ古泉には聞こえたようで、頭の上で笑う気配がした。

「じゃあ、お願いします」

やっぱり余裕の態度にムカつきながら、手を動かす。

「っ…は…」

段々と荒くなる古泉の声。微かな優越感を覚える。そのまましばらく扱いていると、古泉が、「そろそろ…っ…です」と言った。俺より倍くらいの時間がかかったのは、俺が早漏な訳でも感じやすい訳でもなく、ただ俺と古泉の経験の差だと思って欲しい。というか頼むから思ってくれ。
最後の刺激とばかりに古泉がやったように鈴口を強く刺激すると、古泉の方だが小さく震え、そこは白濁とした液を吐き出した。近くにあったティッシュでそれを受け止める。

「…なんか、疲れた気がする…」
「そうですか?…あ、シャワーでよければどうぞ。そこの奥にありますから」
「んー。借りとく」

シャワーを浴びて出てくると、古泉は片付けを終えたようで、テーブルに缶コーヒーを置いた。ありがたくそれを飲みながら、俺は古泉の部屋をぼーっと眺めていた。

「…それにしても、驚きました」
「何がだ?」
「あなたの方から誘って来たことですよ。てっきり抵抗があるものだと思いましたから」

抵抗がないわけじゃない、んだが…古泉ならなんとなく良いか、と思ってしまった。大体本当に最初にしかけたのは奴なのだから、問題はないだろう。

「こちらから誘うとか、前回のようになし崩しに持っていけば乗るかと思いましたが…あなたからとは予想外でしたよ」
「悪かったな、予想外で。…ごちそうさん。んじゃ、帰るわ」

そう言って鞄を持って立ち上がると、古泉も玄関までついてきた。

「あ、そうそう」

顔が見えないのを良いことに、ついでとばかりに言ってやる。精一杯のポーカーフェイスで。

「また気が向いたら頼む」

少しだけ、無言が返って来た。多分驚いてるんだろう、本気で。

「…ええ、是非」

背中を向けたため見えなかったが、多分満面の笑みだったんじゃなかろうかと思う。








こうして俺たちの微妙で不毛な関係は始まったのだ。































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