ほんの少し身じろぎをするだけでぎり、と革が手首に食い込むのが解る。それでも体は勝手に動き、その痛みさえかき消されて行く。ァ、と意味のない言葉が息と一緒に口から溢れる。そろそろ声を出すのさえ疲れてしまった。
視界は真っ黒に閉ざされている。普通なら布越しでも少しくらい光が届きそうなものだが、此処まで真っ暗ということは電気も付けず部屋もカーテンを閉め切っているのだろう。じわり、と生理的な涙が浮かんで、布に吸い込まれて行く。
口に固定されている器具のせいでろくに口を閉じることさえできない。唾液を呑み込む労力もなく、だらだらと端から溢れて行く。それが喉を伝って、流れる。気持ち悪い。
この器具はなんて言うんだったか、なんて考えていると、それを読んだようにくすりと笑う声が聞こえた。

「ギャグボールですよ。まあ平たく言えば猿ぐつわと一緒ですけどね」

それきりまた沈黙が訪れる。いや、正確には沈黙ではない。外と中―――――骨を伝ってブブ…、と機械音が響いている。そして、突き刺さるような視線。
俺はただひたすらくぐもった嬌声を上げて、解放を待つしかない。体の中で暴れる熱は解放されることなく、何か紐のようなもので戒められている。人間は視覚から得る快感の方が多いと言うが、見えない方がよっぽどだ、と思う。見えない分見られていることを意識してしまうし、余計な音まで聞こえてくる。また、ギチ、と拘束具が音を立てた。この場合、手錠でなかったことを感謝しておくべきなのだろうか。

「ああほら、そんなに動くと傷がつきますよ。…すっかり赤くなってますね。痛いですか?」

拘束具の上に古泉が口付けるのが解る。それだけではどこにいるのか解らないので睨みつけるしかできず、俺は喘ぎ声と一緒に溜息をついた。







そもそも一体どうしてこんなことになったんだったか、と思う。確か古泉がこんなことを言い始めたんだった。

「女性は精神や視覚で感じて、男性は直接的に触ることで感じるらしい、と聞いたことがあるんですが、だとしたらネコの場合どちらなんでしょうね?」

にこりと笑う古泉に寒気がした。こういう顔でこんなことを言い出すときはろくなことがない。俺は立ち上がって逃げようとしたのだが。

「っ…!」

膝に上手く力が入らない。腰が抜けたような感じだ。ついでにいうと体もじわじわと熱を持って来ている。まさか。

「ホントに効くか心配だったんですけど、意外とこんなものでも効くんですね」
「おま、えなぁ…っ!」

古泉が手にしていたのはいわゆる媚薬、というやつで、おそらく飲み物の中にでも混ぜやがったんだろう、なんて頭は冷静に考えている。そんな場合じゃないんだが、逃げようにも力が入らないのが現実だ。

「まあそれほど強い薬でもありませんから、安心してください」
「安心できるわけ…っ」

ない、と言おうとしたのだが、布で視界が塞がれる。そしてそのまま抱え上げられ、振動でどこかに移動しようとしているのが解った。周りが見えないために俺は古泉にしがみつくしかなく、視覚から得られる情報がないというだけでこれほど心細いものだと思わなかった。
しばらくすると柔らかで弾力のあるものの上に寝かされ、ベットか、と思い当たる。目隠しだけで済むならなんてことないな、なんて思っていると、急に腕を取られた。冷たく硬い感触のする布に手首を締められ、腕を上に引っ張られる。がちゃり、と小さな音が聞こえて、なんだ?と思い腕を動かそうとしたのだが、動かない。
ちょっとまて!そう思った時にはもう遅く、両腕は拘束されていた。見えないというのは不便で、古泉が次にどんな行動に出るのか解らないため、抵抗が遅れてしまう。次に足首をとられ、まずい、と思う頃には片足をベットの脇に拘束されていた。

「古泉、お前、どんなつもりで」
「ソフトSM、というのもやってみたかったんですよ。言えば絶対あなたは嫌がって抵抗するでしょう?」

なるほど、なら抵抗しないうちにそこまで持って行ってしまえ、と。

「ふ、っざけんな!」
「ふざけてませんよ。いたって真面目です」

なお悪い。くそ、この変態、鬼畜!

「この程度で鬼畜って言われると複雑ですねぇ」

なんとか抵抗しようと足をばたつかせていたのだが、あっさりと掴まれ、抑えられる。まだ足枷をされることはなく、なんとかなる、と思ったのだが、古泉の手がベルトにかかり、がちゃがちゃと外していく音が聞こえた。抵抗しようにも上手くそれをねじ伏せられ、下着ごとズボンを脱がされる。その後で同じように足枷をされ、ベットの端で固定された。つまり俺は開脚状態だ。

「…いい眺めですね」

くすりと古泉が笑う声が聞こえ、羞恥で顔が赤くなるのが解った。くそ、忌々しい。

「っ!」

ぱたり、と体の上に冷たくとろりとした液体が落とされた。ローションだろう。性器を中心にそれは垂らされ、冷たさで身もだえる。
つぅ、とローションは下の方へ伝って行き、古泉がそれを指に絡めながら収縮した場所に触れる。入り口を解すように指の腹で撫でられると、徐々にそこが柔らかくなるのが自分でもわかる。すっかり慣された体は抵抗することもなく古泉の指を受け入れる。

「どこの指が入ってると思います?」
「っな、」
「答えて下さい」

そんなもん知るかよ、と俺が黙り込んでいると半ば爪を立てるようにして内壁を刺激された。

「ぃあっ」
「ほら、早く」

これ以上黙っていると余計に酷いことになりかねない。そのうえ先ほどの刺激で締め付けたせいで嫌でもその指が何指なのか予測出来てしまった。計算済みじゃないだろうな。

「な、か、指…っ」
「よくできました」

これはご褒美です、と無遠慮に二本目の指が入って来た。それすらもそこは簡単に呑み込んでしまう。

「次は?」
「は、…人、さ、し、指…、っ」

再び指が追加される。合計三本。いくら慣れてるからっていきなり三本はキツい。

「これは?」
「ぃ、ぁ…っ…く、すり…っ…ゆびっ」
「正解です。ご褒美ですよ」
「っ――――――!!」

そう言って古泉の指は容赦なく前立腺を抉った。声にならない悲鳴が大量の息とともに吐き出され、性器からはだらだらと白い液体が溢れ出す。ずるり、と指が抜き出され、そろそろ解放されるだろう、と思ったのだが。

「…?」

古泉は離れ、何かを取り出す音が聞こえた。次の瞬間、窄まった場所に冷たく硬い何かが押し当てられる。

「こい、ずみ?」
「このくらいなら平気ですよね。いつも僕のを銜え込んでいるんですし」

何を、と思った瞬間、それは中へと押し込まれた。圧迫感に息がつまり、僅かに喘ぐ。そんな俺の様子を意にも介さず、容赦なくそれは奥へ挿れられて行く。

「わかりますか、これ」
「っ…しら、な、」
「でしょうね。初めてでしょうし。これはバイブレーターですよ」

さぁ、と一瞬で血の気が引いた。まさか。

「僕は見てますから。存分に喘いで下さいね」

にこりと古泉が笑う気配がして、かちりとスイッチが入れられた。それは音を立てながら動き出し、イったばかりで敏感な俺の体を苛む。

「っ…ひ、…ん、く、ぁ…!」

そこまで好き勝手にされてたまるか、と、半ば意地になり、俺は慌てて唇を噛み締めた。

「声、聞かせて下さいよ。僕はあなたの喘ぐ声が好きなんですから」

俺はぶんぶんと首を振った。こうなると俺が強情なことを知っている古泉は小さく溜め息をついた。よし、勝った。そう思った俺が馬鹿だった。

「じゃあ、お仕置きですね」








その時の古泉の声はとても楽しそうで、抵抗するのを解っててこんなもの用意したに違いない。問答無用で指を突っ込まれ口を開かされた俺はギャグボールを銜えさせられ、あげく根元を縛られてイけないようにさせられた。いけしゃあしゃあと「ちょっとくぐもって聞こえるのが難点なんですけどね」と言ったコイツに殺意を覚えた俺を誰が責められようか。
しかし口を閉じられなくなったために声を上げるしかなくなったのも事実だ。見えないとはいえ、古泉に見られているのは解るのだ。今なら羞恥心で死ねる気がする。

「今更だと思いますけどね、僕は。もっとあられもない姿や声を聞いてるじゃないですか」

それとこれとは場合が違う、と思う。そして思考を読むな。イきたくてもイけなくて、またじわりと涙が浮かび、布に吸収される。

「…虐めるのもここまでにしておきましょうか。あなたに嫌われたくありませんし」

今までの行為で既に嫌われそうだということを自覚して欲しいものだ。バイブが抜かれ、足の戒めが外れる。ああ、やっぱり赤くなってる、と古泉がべろりとそこを舐めた。ついでにギャグボールも外されたのだが、目隠しと腕の拘束具は外されない。多分外せと言っても外してもらえないだろうな。

「そのままでも大丈夫ですよね」
「っ…!」

ずん、と質量のある熱い塊が押し入ってくる。

「ひ、ぁ、あ…っ…こ、いずみ…っ、これ、外、せ…っ!」

ずっと呻いていたせいか声はかすれていた。せめてこの根元を戒めている紐だけでも、と思ったのだが。

「駄目です。今外したらイってしまうでしょう?どうせなら一緒が良いじゃないですか」

古泉がへらりと笑う気配がして更に奥まで侵入してくる。熱さと苦しさで涙が滲む。

「心配しなくても、どうせ僕もそう長くは持ちませんから。あなたの痴態を散々見せつけられましたし」

ね?と古泉はいうが、そうさせたのはお前だろう!しかしそんな抗議も喘ぎ声へと変わり、意味をなさない。
奥まで入りきったかと思うと、間髪入れず古泉は動き出した。お陰で息がついていかず、苦しい。

「ぅ、あ…っ…ひ、は、…っぁ、く…ん、ぁ、ああっ」
「っ…苦しいですか…? もう少し、我慢して下さい」

息苦しいのに、更に追い打ちをかけるように古泉が荒いキスをする。お前は俺を窒息死させたいのか。

「ふふっ…そう、したら…腹上死ですね」

言っとくが正確にはちょっと違う。そして冗談に聞こえんから止めろ。
顔は見えなくても古泉の動きと声でああ、こいつも余裕ないんだな、なんてことがわかる。俺が煽ったのかと思うとぞくりとするのだから、自分も始末に負えない。
もう限界だ、と思う。おかしくなりそうだ。

「こ、いずみ…っ…も、限、界だ…っ」
「っ…ふふ、いい、ですよ…っ、」

するり、と紐が解かれるのと同時に、古泉が前立腺を抉るように刺激した。目の前がちかちかとして、自然にぎゅう、とそこが締まる。俺がどろどろと吐き出すのと同時に、中にも熱い液体が注がれて行く。古泉が俺の中から出ると、どろりとした液体が腿を伝うのが解った。
手首の拘束が外され、目隠しも外される。室内だって充分暗いはずだが、少し目に痛かった。手首の傷に口付ける古泉を思い切り睨んでやる。

「おや、お気に召しませんでしたか?」
「お気に召すかこの馬鹿!アホ!変態!鬼畜!!」
「褒め言葉と受け取っておきますよ」

にっこりと笑うこいつには何を言っても無駄に違いない。こういう時一番効果があるのが何かを知っている俺は、この先2週間の禁欲生活を心に決めたのであった。まる。























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