「うひゃあっ!?」

声が出てから俺は思わず、しまった、と口を遅かった。いやわかってる。ちょん、と触っただけなのにそんな声が出るなんてお前は本気で驚いたんだろう。俺だって油断さえしてなけりゃこんな声で足りしない。だから目を丸くするな!口を半開きにしたまま驚くなこの馬鹿!

「…え、っと…あの…」
「うるさい何も言うな何も聞くな何もするな!」

一気にわめいてから俺は慌てて顔を伏せた。今、恥ずかしさやらなんやらで顔が真っ赤になっているに違いないからだ。

どうやら自分は人よりかなり敏感なのだと気づいたのはそう最近の事ではない。はっきり言って結構前である。助かったと思っておくべきなのだろう。おそらくは。
妹が今よりもっと小さい頃、異常なほど人をくすぐりにやって来たことがある。たわいないじゃれあいだったのだが、どこを触られてもかなりくすぐったくて仕方なかったのだ。
それだけではない。肩が凝った、と言って親にちょっと肩を揉んでもらおうとした時も、くすぐったくて無理だったのである。
膝、首すじ、脇腹、足の裏。ここまでは普通だろう。だが二の腕やら頭やら、シャワーを浴びている時でさえふとくすぐったく感じる時があるのだ。親にそれを告げた所、「敏感」なんだろう、という答えが返ってきたのだ。それで、自分はどうやら人一倍敏感らしい、と悟ったのだが。
…まあいい、こんな話は言い訳にしかならん。いや、言い訳したいんだけどな。

何故先ほどのような声が出てしまったのか。それは単純明快である。古泉がふと俺のうなじに触れたからだ。いや、ふと、と思いついて人のうなじに触れるのかお前は!という話なのだが。

「すみません、そんな反応をなさるとは思わなくて…」
「黙れ誰が喋っていいと言った」

古泉は黙り込む。よし。
実を言うと結構人の声さえくすぐったく感じるのだ。高い声ならまだ良いが、低い声は余計に。だから古泉の声は結構耳に響くので苦手だ。しかも顔を近づけられてみろ、吐息と声のダブル攻撃だぞ、耐えるこっちの身にもなってみろ!
…よし、ちょっとは落ち着いたぞ。

「…言い訳を聞いてやろうじゃないか」
「えぇと…その、あなたは髪が短いじゃないですか、それで、うなじもよく見えるし、綺麗だなぁ、と思ってふと触ってしまったというか…」

僕はてっきり普通に怒られる物だと思っていたんですが…と古泉は困ったように笑う。困っているのはこっちの方だ。

「…くすぐったがり屋なんですか?」
「ひ、ちょ、おま…っ…さわ、んなぁ…っ」

くすぐったさで悶える俺を無視して、古泉は手の平をくすぐってみたり、指の間をくすぐってみたりする。そんなとこ、と思うかもしれんがこっちはかなりくすぐったいんだぞ!…いかん、涙目になってきた。

「も、いや、だ…っ…ぁ、やめ、ろ…っ!」
「っ…」

涙目のまま古泉を睨むと、何故か古泉が息をのんだ。…顔が若干赤い気がするのは気のせいか?

「す、すみません」

やっとくすぐり攻撃から解放されたと思ったら、古泉は慌てたように部室の外に出て行ってしまった。

「…なんだったんだ、あいつ」
「古泉一樹の心拍数は上昇していた。そのため出て行ったのだと思われる」
「うお!?…す、すまん、お前もいたんだったな、長門」
「…ちなみにくすぐったい、というのは感度がいいと同義語と言われている」

な、長門さん?










「っ…!」

どうしたというのだろう。こんなに、心臓がドキドキするなんて。
そもそも何故僕は彼に触れたい、だなんて思ったんだろう。白くて、綺麗で、細いうなじ。少し横にずれれば、黒子毛の生えた黒子があって…

「わぁーーーっ!!」

思い出してしまって、慌てて頭を振った。なんでこんなにドキドキしてるんだ!?
でも、可愛かった。可愛いと、思ってしまった。顔を赤くして、涙目になって、あんな声で…

「…いい加減にしましょうよ…」

おかしい。明らかにおかしい。
今の僕は、彼に欲情している。それも、明らかに。
認めたくない。でも。

「…好き、なのでしょうか、これは…」

好き。彼が。言葉に出したら、より一層実感してしまった。そうだ、僕は彼が好きなのだ。性的な対象として、彼を好ましいと思っている。
でなければ触れたいと思わないだろうし、彼のあの反応だけで、こんな風に反応してしまうこともないはずだ。



…うん、とりあえず落ち着きましょうよ、僕。じゃないとトイレから出れません。















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