コンコン、と俺は部室のドアをノックした。しかしいつものように朝比奈さんの麗しい声で「はーい」という返事はない。
今日はまだ長門しかいないのか?そう思って遠慮なく扉を開いたのだが、そこには机に突っ伏す古泉の姿だけがあった。
「…珍しいもんだな」
思わず呟いていた。古泉だけがいて、なおかつ熟睡しているとは。よっぽど疲れていたんだろう。
起こさないように静かに鞄を起き、椅子に座る。へらへらと笑っている以外の顔はあまりみないので、新鮮だ。
ブー、と携帯が小さく振動する。慌てて止めて、画面を開くとメールだった。ハルヒから。
「…休みかよ、もっと早くに言えっつーの」
さっきまで一緒に教室にいたんだから、その時に言えば良いのに。
やれやれ、気分屋だな、あいつも。
しかしまあ、これで古泉をそのまま寝かしておいてやれるらしい。朝比奈さんも長門も、多分来ないだろう。
こんなところで寝るよりは、家に帰って寝た方が良いとは思うのだが、ここまで熟睡していると起こすのも忍びない。
「無防備な顔してんなー…」
普段の顔を見慣れてるせいか、いつもより幼く見える。
しかしまあ、それもそのはずだったんだが。
「…ん?」
俺はふと古泉の腕の下に敷かれている本を見た。なになに…?
「『中学二年生のための問題集』…?」
…は? ちゅうがくにねんせい?
「はぁあっ!?」
思わず大声を出して驚いてしまった。
「ん…?」
お陰で古泉が目をこすりながら眠たそうに起きてきやがった。寝ぼけてるのか、普段なら絶対しないであろう欠伸付きで。
「あれ…キョンくん…? おはよう、ございます…」
「あ、ああ、おはよう…じゃなくてだなっ!」
一瞬つられてしまったがそう言う場合じゃない。
「お前、これはなんだこれは!」
古泉から本をひったくり、古泉の眼前に翳す。
「…? …! !?!?!?!?」
はい、以上、古泉の声にならない驚き。古泉の顔は青くなったり赤くなったり急がしそうである。
「あ、あああああのっ、こ、これはですねぇ」
古泉はわたわたと慌てている。頼む、頼むから実は…とか言うなよ!
しかし事実は容赦なく俺の目の前に突きつけられるのである。
「…実は僕、本来なら中学二年生なんですよ」
はい終わった! 俺はがっくり項垂れた。中学二年生。つまり13歳。
「あ、あの…?」
それが予想外だったのか、古泉は心配そうに俺に声をかける。
「その年で178cm…!!」
「え、あの、そこですか…?」
「そこだそこ!結構重要なことだぞ。くそ、まだまだ伸びるお年頃ってか、羨ましいぜ…」
「あなたもまだ伸びると思いますけど…」
両親を見てる限りあまりそうは思えない。伸びてもせいぜいあと5cmだろ、うん。
「それにしても…年下とはな…授業とか、大丈夫なのか?」
「あ、はい、一応機関で軽く教えてもらってはいますから。本来の年齢の勉強もしなくてはならないので、結構大変なんですけどね」
まあ、高校に、神人退治に、中二の勉強。そりゃあついうっかり寝てしまう事もあるだろう。
むぅ、しかし身長もある、顔も良い、頭も良いとくれば…言う事なしだと思うんだが。
彼女を作りたがらない理由と言うのも、多分年齢が含まれるんじゃないだろうか。まだそういう年頃じゃないのかも知れない。それに、バレる恐れもあるしな。
「色々大変なんだな、お前も」
ぽんぽん、と頭を撫でると古泉が驚いたようにこちらを見返していた。なんだよ?
「いえ…年下だって解った途端、優しいな、って」
「多分驚いてムカつきも湧いて来ないんだろ。実際後になったらいつもより態度は酷いかもしれないぜ」
「それでも…ありがとうございます」
これならもっと早く、バレちゃっても良かったですね。
古泉は年相応の幼さで、笑った。
「…疲れてるんだろ、寝とけよ」
「え?でも」
「その調子だとどうせ家に帰っても勉強が待ってるだけだろ、じゃあここで寝てろよ」
体壊したら元も子もないだろ。まあ俺がいたら寝辛いかも知れんが。
「いえ、そんなことは」
「なら寝ろ」
「…じゃあ、お言葉に甘えます」
古泉ははにかんで、先ほどのように机に顔を伏せた。俺は出来るだけ邪魔しないように、長門の本棚から本を持って来て、開く。
すぐに穏やかな寝息が聞こえて来て、俺は小さく笑う。
ほら、やっぱり疲れてたんじゃないか。
さらさらとした髪の感触を手のひらに感じながら、俺は小さく呟く。
「…お疲れさん、お休み、古泉」
五万ヒットリクエスト作品。ko様リクエストで、「実は年下だった古泉」。これが派生してしリーズ化しました。