「…やあ、どうも」
お久しぶりです。そんな風ににこやかに笑う奴を見て、俺は思わず硬直した。
「案外上着さえなければバレないものなんですね」
少々ズボンの色は違いますが。
俺の良く知っている奴と殆ど同じ顔をした奴は、如才ない笑みを貼付けてそう言った。まあ、座っとけ、そう言って俺は椅子を勧めた。ハルヒがこの場にいなくて本当に良かったと思う。
まさか学ラン姿の古泉を、また見る事になるとは思わなかった。
「あなたと会ったのは12月ですから…数ヶ月ぶりになりますね、お変わりないようで一安心ですよ」
「…なんでお前がここにいるんだよ」
「それはこちらの方が知りたいですね。大方、妙な力を持っていると言うそちらの涼宮さんが何かしたんじゃないんですか?」
…そう言えば、あれは長門が改変しただけの世界だったんじゃないのか?だとしたら、何故まだお前がいる。
「そうですね…あれもある種のパラレルワールドとして成立しているんじゃないですか?現に向こうでは向こうのあなたが存在していますよ」
「向こうの俺?」
「あだ名はジョン。今のあなたとそう変わりはありませんが、妙に悟りを開いてるような所がありますよ」
「へえ?」
「あの時点であなたが持っていた記憶をそのまま持っているあなた、っていうことなんでしょうね。お陰で僕はあなたに嫌われているようですけど」
困ったものです、と古泉は肩を竦めた。別に困りはしないだろうが。
「いえ、そうでもないんですよ。何せSOS団という活動は向こうでも始まりましたから。あなたと顔を突き合わせる機会も多いんですよ。…おっと、彼、と言うべきでしたか」
「どっちでもいい。どうせ関係ないしな」
「ふふ、どうやら僕はあなたにも好印象を持ってはいただけないみたいですね」
そりゃそうだろう。俺の知ってる古泉はあいつであってお前ではないんだから。同じ顔して違う性格、それもちょっとムカつく感じとくれば気に入る道理は無い。
そう言えば未来人がとか宇宙人がとか色々言ってしまったんだが、あのあとあっちの俺はどうしたんだろうな。
「こちらのあなたですか?別に気にするな、と言ってましたよ。ここのあなたとこちらの世界のあなたは途中までの記憶は同じでも、性格は違うようで、別に彼はこの世界の事を気にしてはいませんでしたし」
それは多分、向こうに俺がいて、まだこの世界を探してたって仕方ないからだろう。あの時点で俺が持っている記憶を、向こうも持っていると言うなら、多分俺がこの世界にいることも解っているはずだから。
「そうですね、記憶はあっても…あの時と違い、あなたはこちらに帰りたいとは思っていらっしゃらないようですし、朝比奈さんや涼宮さんはあなたが知っている性格と変わりない。別の性格をしているらしい長門さんも、あれはあれで可愛いと気に入ってらっしゃるようですし。…僕だけがお気に召していただけないようで」
古泉がそう言ったとき、コンコン、と扉がノックされた。反射的に「どうぞ」と答えてしまう。しまった。
「誰かの声がしましたが…お客さんで、す…か…?」
古泉だった。そりゃ、驚くだろうな、もう一人自分がいるんだから。
「おやおや、僕のご登場ですか。これでドッペルゲンガーだったりしたら、二人とも死んでしまいますねえ」
なんて古泉…(消)とでも付けておこう、はまるで楽しんでいるかのようににこやかに言う。
「…また、涼宮さんですか?」
「まあ、おそらく…」
俺は大きく溜息をついた。
「…大方、僕がもう一人いたらどうなんだろう、とでも思われたんでしょうか」
「そうなんじゃないか?」
そもそもハルヒはあの事件を知らないのだから、古泉(消)と会ってみたい、なんて思うはずも無い。
「まあ原因はどうでも良いんですよ、僕にとってはね。帰る事が出来れば、それで」
投げやり感たっぷりで古泉(消)が言う。相変わらずやる気ねーのな。
「ええ、別に僕に超常現象を楽しむ趣味はありませんし、解明したいとも思いませんから」
「理由が解らなければ帰る事も難しいですよ、この場合ね」
古泉が呆れたように言った。…うむ、やっぱ性格は違うんだな。
「…とりあえずは長門さんか朝比奈さんを待つしかないんじゃありませんか?」
「自然に解決されるレベルなら、良いんだけどな」
再びコンコン、とドアがノックされた。長門でもハルヒでもないな。誰だ?
「こんにちは、お久しぶりね、キョンくん」
朝比奈さん(大)だった。
「…朝比奈みくるさん、ですよね」
古泉(消)が少しだけ戸惑うように問い返す。そうです、と朝比奈さんは頷いた。
「…こちらでは朝比奈さんは大人の女性なんですか?」
「言ったろ、未来人だって。実際の朝比奈さんはそっちの世界と変わらない姿だ。この人は更に未来から来てるんだよ」
「…未来人がいる、っていうのも本当の話だったんですね…」
感心したように古泉(消)は言うが…信じてなかったのかよ。
「ということは、こちらの僕にも本当に超能力が?」
「わかりやすい形での力ではありませんから、お見せする事はないですけどね。…それより、お二人は知り合いだったんですか?」
「は?」
今までなんだと思ってたんだよお前。
「いや、ただ単に涼宮さんに作られた、もしくはパラレルワールドから引っ張られて来ただけなのかと思ってたんですが…あなたはもう一人の僕にあったことがあるんですね」
「ああ。ほら、こいつはあの…クリスマス前の事件で出会ったもう一人のお前だよ」
「そうなんですか…」
古泉は少しだけ思案していた。再び扉が開く。
「…またせた」
長門だった。
「あと5分後に涼宮ハルヒがくる。それまでに片付ける」
その言い方、なんか今から戦闘するみたいだぞ。古泉(消)を見れば、少々固まっていた。…ああそうか、お前表情のない長門なんて知らないからな。
それにしても流石長門だ。事情を説明せずとも解ってくれているのはありがたい。
「手を」
「…?」
訝しがりながらも古泉(消)は長門に腕を差し出す。あ、もしかして。止める前に長門が手に噛み付いた。古泉(消)は驚いて声も出ないらしい。
すぐに長門は古泉の手から離れた。
「後は待つだけ」
「待つ?」
「彼は自動的に帰される。わたしと朝比奈みくるの異時間同位体は時空を歪めず古泉一樹の平面同位体を送り返すためだけに必要だった」
「…じゃあ、あとは適当にしてれば帰れるわけですか」
「そう」
長門は頷いた。そしてそのままいつもの定位置に戻り、本を読み始める。
「あ、じゃあ、あたしもこれで役目は終わったので、帰りますね。それじゃ」
そう言って朝比奈さん(大)も部室の外へと出た。今追いかけてももう、いないだろう。しかし朝比奈さんが何かしたようには見えなかったのだが、まあ何かしらしてったんだろう。どうせ未来の技術なんて俺にはわからん。
「あ、どうやら時間みたいですね」
古泉(消)を見れば、手が透けて消えて来ていた。この際ぱっと消えた方が早いだろうに。
「涼宮さんに良いお土産が出来ましたよ。それこそ、『なんであたしも連れてかなかったの!』なんて言われそうですけど」
「そりゃよかったな」
「ええ。…それじゃ」
言い終わると同時に古泉(消)は完璧に消えた。あの消え方、ちょっとだけ朝倉を思い出すな。
「…やれやれ」
「みんな、おっまたー!」
バーンッ、と勢い良く扉が開いた。ギリギリセーフ、か?
「どうしたの?みんなそんな顔して。…あ!そうそう、今日おそかったのはね…じゃーん!」
ハルヒが取り出したのは二着のコスプレ衣装。一着は明らかに朝比奈さんだが…もしかしてもう一着は…
「学ランよ学ラン。キョンも古泉くんも着れると思うから、二人とも着てみてよ。…あれ、どうしたの変な顔して」
もしかして、もう一人古泉がいたら、とかじゃなくて学ラン姿の古泉とか見てみたいっていうのが理由だったのか!?
古泉と顔を見合わせて脱力するしかなかった。
…とりあえず、言っておこう。
「「似合わないと思うぞ(思いますよ)、それ」」
五万ヒットリクエスト作品。佐恵様のリクエスト、「古泉と消失古泉の対面」でした。