朝起きて、自分の体の変化に愕然とした俺は、自分の声を聞いて再び愕然とした。

「なんだこれ…」

髪はショートカットのまま。けれど体が明らかに細く小さくなっている。喉から唸るように出した声さえ、いつもより数倍高い。
部屋はいつもと変わらない。強いて言えばちょっとぬいぐるみとかが増えてるの、か?
そして、自分にあるはずのものがなくて、ないはずのものがある辺りで俺はやっと事態を認める気になった。




どうやら、今俺は女になっているらしい。




「キョン姉どうしたの?」なんて起こしに来た妹…もとい弟を着替えるから、と部屋から追い出し、希望的観測を見事に打ち砕かれた女子制服に着替えた。
なんつーか、足がすーすーする。気持ちが悪い。一緒においてあった黒のニーソックスを履くと少々おちついたが…やっぱり変な感じだ。
おはようさん、と言いながら下に降りてとりあえず安心した。両親の性別が逆転してることはないらしい。よかった。
適当に朝飯を食って学校に向かう。忌々しいこの坂が、さらに忌々しく感じるな。

「やっほーキョン!どしたどした?元気ないじゃん!」

誰だこいつ。とか思ったのだがなんとなくわかる。谷口だ。振り返ると谷口は、いかにも女子高生!ってな感じで、超ミニのスカートにルーズソックス、ツインテール。鞄にはキーホルダーがじゃらじゃら。…いつの時代の女子高生だ?ちょっと古くないだろうか。

「坂上るのが面倒だと思ってただけだよ」
「ふーん。あ…国木田じゃん!」
「あ、おはよう」

国木田はセミロングヘアに細身で小柄、なんともお嬢様、という感じのする女の子になっていた。…お前、通う学校間違えてないか?確実に光陽園学院の方が似合いそうだぞ。

「そんな事言っても今更だしね。…それにしても、憂鬱だよね、この坂」
「まぁな…」

そんな事を話しながらのんびりと三人で学校に向かう。女子の体というのは男の体の時より体力もないし歩幅も狭い。おかげで中々たどり着けなかったがな。
さて、席順なのだが…この場合、どうなのだろう。ハルヒは…いた。いつもの席だ。
しかし明らかに違うのが、今あいつが男だと言う事だ。なるほどね、性別転換。ある種予想はしてたがな。俺も対して驚かない辺り、末期だな。

「よぉ、ハルヒ」
「…なんだ、キョンか」

この呼び方は変わらんらしい。眠たいのか、ちょっと不機嫌そうである。
性別が変わっている以外に特に変化もないようである。内面は、まあ多少性別に合うように変わっているとは言え、おおよそ同じだろう。
昼休みになりふらふらと廊下をぶらついていると、知り合いと思しき男にかち合った。

「…長門、か?」
「そう。私は長門有希」

名前もかわらんのか。まあ有希って名前なら男でも大して問題はないか。
そんな長門はすっかり背が高くなっていて、眼鏡をかけている。…何故眼鏡?

「涼宮ハルヒがかけた方が良い、と言った」

まあ確かに、結構理知的な感じで似合っている。

「他の人には、もうあったのか?」
「え?いや、まだだが…」
「早く見てみると良い」

どういう意味だ?

「ユニーク」

そうとだけつぶやくと長門は去って行く。

「あれ、キョンさんじゃないですかぁ?」
「あ、ホントだねっ!」

このどことなーくのんびりとした声と元気な声の二人組は…

「やぁやぁ!元気かいっ?」
「うわぁっ!?」

いきなり鶴屋さんに抱きすくめられ、頭をわしわしと撫でられる。ちょ、鶴屋さん背高っ!

「うーん、いつ見てもキョンちゃんは小さくて可愛いねえ!」

それもそうだろう。180近い鶴屋さんと160あるかないかの俺とでは雲泥の差である。すぐ傍で170くらいの朝比奈さんが苦笑している。
俺が解放される頃にはすっかり制服も髪も乱れていた。まあ今更気にしないが。

「セクハラですよ、鶴屋さん」
「あっはっは、そりゃすまないねえ!」

ちっとも悪いと思っていないような笑顔で答えた。

「じゃ、僕らはこれからお昼だから、まったね!」
「あ、それじゃあ、失礼しますね、キョンさん。また、放課後に」

男になっても朝比奈さんの笑顔の癒し効果は抜群である。身長も元の俺と同じくらいはあるし、顔立ちだってしっかりと男の顔なのだが…うむ、やっぱり人柄なんだろうな。
と、俺もこんなところでぶらぶらしてないでそろそろ教室に戻らないとな。




例によって例のごとく、谷口の下らないナンパ理論を国木田と聞き流しつつ昼は終わり、午後の授業も気だるい眠気とともに過ぎて行く。つまりはもう放課後である。
こんな姿になってもSOS団部室へと向かうのはもはや帰省本能のようなものであり、また、朝比奈さんに放課後に、と言われた影響もあるだろう。別に、決して今日はまだ会ってないやつがいるから、とかではない。

「…ああ、やはりあなたもそんな状態なんですね」

と、俺の耳朶を澄んだ水のような声が叩いた。

「どうも。わたしも見ての通り、こんな状態でして」

なんと言うか、見た目も声通り、非常に清楚で可愛らしい古泉がそこにいた。
清楚ながらも身長は高く、体型もナイスバディと言うべきだろう。出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。羨ましい事である。俺なんか、細身ではあるものの、その分ないからな、胸が。
一人称をわざわざ「わたし」にしているのは、外見に合わせるためか?

「ええ、まぁ。機関の方でも、今わたしの性別の認識は元から女であったことになっていますから。…それにしても」

じゃあ森さんとかどうなってるんだろうな、なんて俺が考えていると、古泉が近くまで来ていた。

「あなたは髪、短いんですね」
「っ…!」

やめろ、うなじを触るな!

「女性のうなじって、男性が色気を感じるポイントらしいですよ?」
「内面は男かもしれんが今はお前は女だ!」
「それにしても、細いんですね、あなた」

人の話を聞け! 触るな!

「なんと言うか、ここも見た目通り、ですし」
「っひ」

思わず情けない悲鳴が出た。いくら今女同士だからってそれはないだろう!お前!
古泉の手は俺の胸をわしづかみにしている。ないもの触ったって楽しくないだろうが!とっとと放せ!
くす、と古泉が笑う気配がした。

「可愛いですね、真っ赤ですよ?」
「うぁ…!」

み、耳を噛むな耳を!この…!

「セクハラ魔!!」

精一杯そう叫ぶと、首を傾げられた。

「女性って、普通このくらい密着してても良いんじゃないですか?」

涼宮さんがその良い例ですし、と言うがなぁ、

「あいつは例外中の例外だ! っぁ、も…いい加減にしろ…!」

揉むな!!
俺が切れそうな(もう半分切れてるが)気配を察したのか、古泉はやめた。しかし、

「なら、わたしのも揉んでみます?」
「ぶっ…!!」

こんな事を言い出した辺り、こいつも相当楽しんでいるということだけは、確からしい。




言っておくが、俺に百合趣味はないぞ!…多分。
































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