よし、今日は中庭にするか。
そう言って三人で連れ立って校内を歩き回るのも既に日常である。
幸いにしてハルヒは気づいていないらしい。まあ姉さんがこの状態を維持したいがために情報操作を行っている可能性がないわけではないが。
しかしそうだとしても咎めるような気にはならないのも事実だ。姉さんは楽しそうだし、言わずもがな一樹も嬉しそうに笑ってるからな。
「それにしても、やっとテストが終わって嬉しいです」
「わたしも同意見」
テストがある間は部活も無かったし、こうして集まることも無かったからな。それについては同意見なのだが、手放しで喜べないのも事実である。…答案の返却が待ってるからな。
「お兄さんは憂鬱そうですね」
「…俺はお前が憂鬱じゃない理由を知りたいね」
「ええと…僕の場合、お兄さんとお姉さんにしっかり中学の勉強は見て貰いましたから…」
と古泉は苦笑するが、それにしたって高校の問題までばっちりと言いたげな顔はどういうことだ。
「そちらもお姉さんに教えてもらってますから…」
「やり方を教えているだけ」
それを言うなら俺も同じように解き方のコツとかは教えてもらってるんだが…。
「結局かしこいんだよな、お前は」
「そんなことないですよ。勉強は出来るかも知れませんが…」
嫌味か?
「いえ、そうではなくて…お兄さんは人間的な賢さを持ってると思います」
「わたしもそう思う」
「人間的な賢さ、ねぇ…」
そう言われてもピンと来ない。
「なんていうか…お兄さんは色んなことに鋭いんですよね。落ち込んでるとか、寂しいとか、そういう気持ちに敏感なんですよね」
「キョンはその時一番最適な選択肢を選べる人。賢いと言うよりは、人間として出来ている、と言って方が伝わる?」
「なんとなくはわかったが…そんなことないと思うぞ」
正直過大評価だと思う。そりゃ、姉さんや一樹には優しくしてるが、俺だって八つ当たりもすればイラついて手を上げることだってある。出来てると言われるような人間ではない。
「でもお兄さん、やっぱり優しいじゃないですか」
「いや、だからそんなことないぞ。俺が見ていられないからそうしてるだけで…」
直ぐ様否定する俺に一樹がうーん、と唸る。なんでそこまで認めさせたがる?
「…難しいですね。お姉さん風に言うなら、『言語化は困難』と言った所でしょうか」
長門が頷く。
「…つまり僕たちが言いたかったのは、お兄さんがどんな風に思っていても僕たちからすればお兄さんはそのくらい素晴らしい人なんだ、って言うことです」
「…自慢の弟」
もちろん一樹も、と付け加えた長門の手で引っ張られ、一樹ともども長門の膝に押し付けられる。
「ね、姉さん?」
「天気がいいから」
ええと、つまり?
「昼寝をするといい。二人とも睡眠を必要としている」
一樹と二人顔を見合わせる。どうやら夜更かしはバレているらしい。一樹は勉強、俺は読書だが。
「時間が来たら起こす」
…多分これは寝ないと解放して貰えないだろうな。諦めた俺は少しだけ肩を竦めた。
「正直眠たかったんですよ…有り難うございます」
そう言う一樹の瞼は半分ほど閉じかかっている。まあ、この天気だしな。
それにこれは姉さんなりの気遣いなのだろうと思う。素直に甘えるか。
「…お疲れさま、おやすみ」
うとうととし始めた時、優しく頭を撫でる感触があって俺は目を閉じた。
睡眠が必要と判断した姉さんに放課後になるまで眠らされたのもご愛敬だ。
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