目を覚ました俺は朝から深ぁーい溜め息をつくことになった。
…ハルヒ、何がしたいんだお前は。
いつも今日こそは、と思って朝起きるのだが、女の体から元に戻ることはない。そのかわり他の変化が起きることも無かったんだが――――
「重っ…!」
昨日まで見る方が悲しいくらいのつるぺったんだったせいかいきなり重くなった胸に俺はうめく。立ち上がって観察してみると、どうもこれは朝比奈さんと同じ体型らしい。本当に何がしたいんだ?
重たい気分と胸を抱えたまま坂道を登り学校に行く。…朝比奈さん、元に戻れたらとりあえずあなたを拝んでおこうと思います。よくもまあ毎日こんな重たいものを…。
そしてすっかり忘れかけていたが今現在俺の髪もそれなりの長さがある。顔以外朝比奈さんになったみたいな気分だ。かと言ってドジっ娘になるわけではないが。
ハルヒの力というのは便利なもので、人の容姿や性別が変わってようが誰も気にかけない。原因である本人すらな。
そのまま何事もなく時間は過ぎ、放課後になる。いつものようにフラフラと部室に向かえば、見慣れたようで見慣れない姿があった。
「…お前もか」
「ええ、どうやらそのようですね」
目の前で肩を竦める古泉からはあの豊満な胸が消えていた。かわりに前より背が伸びて、すらりとした体型になっている。まるでモデルみたいだ。
しかし、ハルヒはまったく変わってなかったからな、てっきり俺だけだと思ってたんだがな。
「まるで朝比奈さんみたいな体型になってますね」
「うひゃ!?こ、腰を撫でるな腰を!」
古泉の手が体のラインを撫でるように上から下へ滑って行く。いちいち手付きがエロいんだよ!
「どうですか?朝比奈さんの体型になってみた感想は」
「色んな所が重たい。胸がでかいってのは大変だな…」
「わたしとしてもあの重たさから解放されてほっとしていますよ、頭も軽いですし」
と言う古泉は実に笑顔である。いまいましい。
「ただまあこれはこれで問題ありますけどね」
「問題?」
「相変わらず痴漢が出るんです」
「痴漢?」
「触っても楽しくない体型になれば大丈夫かと思っていたんですが…それでも出るときは出ますね」
まあ古泉は顔も良いしな。それにすらりと伸びた足は実に魅力的だろう。恨むならミニスカを恨め。
「そうは言いますがあなたも電車に乗るときは気をつけた方がいいですよ」
「乗ることなんてほぼないから大丈夫だろ」
「もちろん電車以外もですよ、街だって危険なんですからね」
まさか自分がナンパされるとは夢にも思わなかった俺は大丈夫大丈夫、なんてその場では適当に古泉との会話を打ち切った。
「ねぇ君、一人?」
最初自分が話しかけられてるなんて思いもしない俺はそのままその声を無視して歩き出す。
「ねえ、君ってば」
「…何か?」
肩を掴まれて仕方なく振り返ると数人の男がにやにやと笑いながら俺を取り囲むように立っていた。
「ちょっと俺たちに付き合わない?」
「…暇じゃないんで」
遠慮します、と男たちの間をすり抜けようとするが、道を塞がれる。
「そんなこと言わずにさぁ」
「退いて下さい、急いでますから」
「急いでますから、だってさ、かーわいいねぇ」
…ムカつく。これならまだ谷口のアホのナンパの方が数百倍マシだ。
「いいじゃん、ちょっとだけだしさあ」
「っ離、」
「彼女を離して頂けますか?」
パシン、と乾いた音がしたと思ったら俺は割って入って来た人物の方に引き寄せられる。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら古泉は男に掴まれた場所を手で払う。…いつから見てたんだお前。
「心配でずっと後を…」
ストーカーかお前は。
「つれないこと言わずにさ、君も付き合ってよ」
古泉が女なのに気付いたせいか男たちは懲りずに俺たちを掴まえようとする。が、その手は簡単に古泉に捻り上げられた。
「いっ…てえ!」
「すみませんが」
にっこり笑ったまま古泉は更に男の腕を捻る。見てる側が痛い。
「わたしたち、あなたがたの相手をするほど暇ではありませんので、失礼します」
最後のおまけとばかりに男の腕を捻ると男を突き飛ばし、呆然とする男どもの間を優雅にすり抜け、古泉と俺はその場を離れた。
「だから言ったじゃないですか、危ないって。わたしは護身術を習いましたからいいですけど…」
「護身術?」
「ええ、柔道、空手、合気道…ですかね。おすすめは合気道ですよ、腕力とか関係ないですし」
ちょっとしたコツは必要ですけど、と古泉は笑う。
「…ありがとな」
「いえ、どういたしまして。これから気をつけて下さいね?…と言ってもまあ、あなたが質の悪い男にナンパされたと聞けば、涼宮さんもまた前の体型に戻すでしょうが。…それより、何でまたまっすぐ家に帰らずここへ?」
「母さんに夕飯の買い出しを頼まれたんだよ」
そこまで言ってふと思う。…うん、このメニューなら問題ないな。
「古泉、ちょっと買い出しに付き合え」
「え?ええ、いいですけど」
「んで、うちで飯食ってけよ」
「え?」
古泉が目を瞬かせる。
「助けてくれた礼だと思ってくれればいい。…ほら、行くぞ」
古泉の返事も聞かず俺は歩き出した。
すぐに嬉しそうな返事が聞こえてきて、自然に俺は速足になった。
余談ではあるが、古泉の言う通り、ハルヒにナンパされたことを話した翌日には戻っていた。…別に残念だとかは思ってないからな!
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