わずか8センチ。されど8センチ。近いようで遠く、遠いようで近い。


ただそれを言い訳にしてる自分に、気がついた。







「一方的、ねえ…」

確かにそれはそうだろう、と思う。俺と古泉の思いは比例しない。かといって反比例というわけではない。でなければこうして隣で歩くこともないだろう。
平行、とも違うと思う。交わってはいるのだから。
古泉はいつでも、どこでも、俺を好きだと言う。じゃあ、俺は? 嫌いではない。むしろ、多分、好き、なんだろうとは思う。
けれど確かに、思いの強さは違うのだ。俺は古泉を周りの人間よりは好きだと思っているが、古泉は多分違う。
己の《神》に背いて、それでも、俺を好きだと言ったのだから。
本当は多分まだこいつの中では整理出来てないんだろうと思う。その時が来たら自分がどうなろうと俺を《神》に譲るかも知れない。だからと言ってこいつは平気な訳ではない。多分ずっと苦しんだりするんじゃなかろうか。
世界と俺を天秤にかけて、それでも俺を選ぼうとして、…ああ、もしかしたら自分が消えることさえ望むんじゃないだろうか。自分が苦しまず、周りも悲しむ人は少ない、とこいつは考えるはずだ。
そして、俺と《神》は二人でそのまま幸せに、と。B級以下の映画だな。

「ええ、そうです。君は思いませんか?」
「正直に言えばそうだと思うがな。だがな古泉、それはお前にも言えるんだぜ」
「え?」

こいつは知らないのだ。お前が思っている以上に、俺はちゃんとお前のことが好きだっていうこと。愛、とまでは言えない。俺は古泉のことなんて思いやる余裕はない。その時が来ても、多分みっともなく古泉にしがみつくんじゃないだろうか。それで《神》が怒って世界が崩壊しようとしったこっちゃない。どのみち全部創り直されちまうかも知れないだろ。
じゃあ、良いじゃないか。最後の最後まで、俺が一番大切な人間を大切だと思い続けたって。
古泉が自己犠牲の愛ならば、俺は自己満足のための恋だ。釣り合っているようで、釣り合っていない。ああ、やっぱ一方的だな。
俺たちは一方的に押し付け合って、それを受容し合っている。それが俺たちらしい形だし、《神》ではないが普通一般と同じでは面白くない。

俺もお前も、言い訳にしてるんだよ、この8センチの距離を。

お互い歩み寄れないわけじゃない。ちょっと首を傾けて、ちょっと背伸びすればいいだけだ。普通一般と同じようにする必要がどこにある?
少なくとも俺もお前も普通じゃないんだ。色んな意味でな。今更普通一般を求めてどうするんだ。お前は普通になりたかったのか?そうしたら多分、出会うこともなかっただろうが。

「とりあえず、このくらいは、」

近づけるんだ、と俺は少し背伸びをした。およそ3センチ。残り、5センチ。
驚いた古泉の顔がすぐ近くにある。ああ、なんか少しだけ、お前がやたらと顔を近づける理由が解った気がする。間近でみると面白いんだな。

「…ふふ、そうですね。一方的でも、歩み寄れないわけじゃないですよね」

たどたどしい俺の言葉を正確に読み取ったらしいイエスマンは、少し首を傾けた。およそ5センチ。残り、ゼロ。




触れ合った唇は、少しだけ乾いていた。






















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