放課後、たまたまその日はハルヒが朝比奈さんを連れて先に帰ってしまったため、俺は古泉と長門と帰る事になった。まあ多分、また朝比奈さんのコスプレ衣装でも探しに行くのではないだろうか。
じりじりと照りつける日差しが強くなっていることを考えると、涼しそうな露出の多い衣装でも勝って来るのではないだろうか。いや、今の段階ではまだ買わず、下見だけと言う可能性もある。
何であろうと俺の目には楽しい映像になる事は間違いないので、ハルヒのセンスに任せるだけだが。
「それにしても…暑いな」
「一応、夏ですからね」
「…そうは言うが、お前らは涼しそうで良いな」
一樹と姉さんを見ている限り、全く暑さを伺い知れないのだが。
「いえ、僕も暑いものは暑いですよ。汗だってかいてますよ?」
ほら、と一樹は言ってみせるが、全然そう言う風には見えない。姉さんは…まあ、汗腺が無くても別段驚いたりはしないが。
「体感的な温度が暑い、という部類である事は感じでいる」
「その割には涼しそうだ…」
思わずそう呟くと、不意に姉さんが俺の手を取った。
「うわ、冷たい」
姉さんの手は夏だと言うのに驚くほどひんやりとしていた。なるほど、汗をかかないわけだ。普通なら病気を疑う所だが、自ら温度を調節しているのだろう、と思う。
「…気持ちいい?」
「ああ、うん、冷たくて気持ちいいな」
そう言うと、おもむろに姉さんが俺の顔を両手で包む。日に当たって火照った頬が冷やされて、気持ちいい。
「…気持ちいいけど、これだけ冷たいとアイスみたいに溶けそうで怖いな」
「大丈夫、溶けないから」
にこり、とほんの少し姉さんが微笑む。姉さんの言う事だ、本当に溶けたりはしないだろう、と信じられる。有希、という名前だけに余計に溶けそうだと思ってしまうのだが。
「でもずっとこうやって冷やしててもらうわけにもいかないしな…アイスでも食べるか?」
「賛成する」
「ええ、僕も賛成しますよ」
一樹も同意したので、ソフトクリーム屋に行くことにした。
「何味がいい?奢ってやるよ」
「え、でも」
「いいから」
何味がいい?と聞きつつも、大体一樹と姉さんが選びそうなのは分かっている。
案の定、
『チョコレート』
と二人が口を揃えて言うのを思わず笑いながら店員に伝える。俺は、普通にバニラ味。
暑さで散々汗をかいたあとなので、甘くて冷たいものがかなり美味い。それは大して汗をかいていないように見える一樹も、体温の低い姉さんも同じなのか、美味そうにアイスを食っている。
ふと視線を感じてそちらを見れば、姉さんが若干こちらを気にしたように見ていた。…なるほど。
「食うか?」
「…いいの?」
「そりゃ、全部はやれないけど一口なら。俺もかわりに姉さんの一口貰うし」
「…ありがとう」
姉さんが嬉しそうに笑うので、こっちまで嬉しくなってくる。
さて、どうやって食べさせようかと思っていると、おもむろに姉さんが俺の口元へチョコのアイスを持ってくる。…このままかじれ、と言う事なのだろうか。
問いかけるように姉さんを見つめてみるが、肯定も否定もしないので、多分そう言う事でいいのだろう、と俺はアイスにかじりついた。
口の中に甘いチョコレートの味が広がる。こういうのはたまに食べるから良いんだよな、と思うくらいには俺は辛党だ。
「美味しい?」
「うん、美味い」
姉さんも、とアイスを差し出せば、小さくバニラにかじりつく。
正直姉さんの事だからアイスも一個じゃ足りないんじゃないか、なんて思っていたのだが、そうでもないらしい。
「美味しい」
「そりゃよかった」
そうして和んでいたつもりだったのだが、どうやらそうは思わなかった奴がいたらしい。
「あのっ…僕、用事を思い出したんで、失礼しますね」
「え?あ、おい、一樹?」
止める間もなく一樹はその場を走り去って行く。どうしたんだ、と思っていると、姉さんが口を開いた。
「一樹の精神が不安定になっている」
「え?」
どういう事なんだ?と聞き返すと、姉さんは困ったように口を開いた。
「一樹はおそらく、拗ねた、という状態であると予測する」
「拗ねた?」
一樹が?と再び問いかけると、姉さんは頷く。
「一樹をほぼ放ったらかしにしていた」
「ああ、そういえば…」
ここに来るまでの道のりも、姉さんと俺でずっと喋っていたような気がする。
ずっと黙っていたから気がつかなかったのだが、一樹はずっとそれを不満に思っていたのか、と今更になって気がつく。
「謝るべきだな」
俺がそう言うと姉さんも頷く。慌てて一樹の携帯に電話をかけるが、応答はない。…ううむ、よっぽど怒っているらしい。
「怒っているわけではない、と思う」
「どういうことだ?」
「一樹の心の中は寂しい、と言うような感情が占めていた」
寂しい?
「そう。寂しくて、悲しくて、辛い。そういった感情」
「それで、微妙な所だから拗ねた、って表現したのか」
こくり、と姉さんが頷く。
「…とりあえず明日、謝るか」
「それがいい。多分今日はこれ以上反応はしてくれない」
「わかった。じゃあ、一樹の好きなもんでも買って、謝るか」
物で釣ろうというつもりではないが、それでも、謝るだけではなんとなく後味が悪いのだ。
一樹の事だ、多分すぐに許してくれる。
そう思っていたのだが、そうではなかったらしい事を翌日、姉さんと二人で思い知ることになった。
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