白い光に照らされて、俺はゆったりと覚醒した。
とある都市の、とある高級マンション最上階の一室。そこが今の俺の城であり、世界だ。
俺がこうしてここに居るようになったのは、ほんの少し前である。ハルヒや長門や朝比奈さんが今どうしているかなんて知らないし、知る必要性も感じていない。
ただ俺が覚えているのは、俺は死んだことになり古泉に監禁されたと言うことだけ。
突然だった。事故を装い俺を拐うと、そのままこの部屋に繋がれた。何をどうやったのかは知らないが、常々機関達が恐れていたような世界の書き換えが起こるようなことは1つもなかった。
何が古泉を狂わせたのかなんて知らない。ただ思うのは、
「あなたはもう僕だけのものです」
と言った古泉のこの上ない笑顔を見たときに、俺も狂ってしまったんだろうな、ということだけだった。
古泉はよくこの部屋からいなくなる。まだ学生を続けて、ハルヒの周辺にいるからだろう。話を聞けばまだハルヒの力はあるらしく、閉鎖空間の処理に追われているらしい。が、直にそれもなくなるだろう、と機関の連中が言っているのを少しだけ聞いた。
俺の誘拐監禁に機関が絡んでいることは明白で、そして古泉が機関で相当の位置にいることも解る。なぜなら、俺の世話役として古泉の居ない間、機関の人間がやってくるからだ。
自分で作れないことはないのに、古泉は俺に身の回りのことを一切させない。だから俺は殆んどを眠って過ごす。
あまり食事を摂らないせいか痩せた体を、伸び放題の髪を、尖った爪を、古泉は気に入っているらしい。背中が痛くなる、と言った時には所有印みたいでいいじゃないですか、と笑っていた。
しかし古泉がいないとつまらない。俺のこの狭い世界には古泉しかいないし、古泉しかいらないのだ。だから俺は最近遊びを思い付いて実行していた。
「…なぁ」
甘えたような声で言うと、食事を運んできた奴はびくりと震えた。
「面倒だから、食わせて」
口を薄く開いて食事をねだると、ごくり、と喉が上下するのが見えた。
震える手で口元に食事が運ばれる。俺はわざとその手を掴むと、指を口に含んでやった。
「っ…」
「楽しいこと、しないか?」
赤い舌を見せつけるように指を舐め、目を細める。多分、そろそろ。
「何をしているんですか?」
それはとても穏やかな声だったが、男は声を発することも出来ずに固まった。
「何をしていると聞いているんですが…まあ良いでしょう、去りなさい」
「は、はいっ」
男が慌てて去って行くのを俺は笑いながら見送る。
「あーあ、可哀想に…」
「…まったく、何人殺させれば気が済むんですか?」
「お前がいないのが悪いんだろ、」
古泉は俺の傍にいなくちゃだめなんだから、と笑いながら抱きつけば、手を取られ指先に唇が落とされた。
こうやってちょっかいを出すことが解って来たのなら、いい加減他の人間をやることを止めてずっと古泉が居ればいいのに、と思う。結局手を出す前に帰ってくるのなら、同じだ。そうすれば、わざわざ事故を装って閉鎖空間で《神人》の手で人を殺させることもないのに、と思う。
最初こそ俺だって抵抗した。無理矢理犯され、監禁され、この部屋に繋がれて。いつしか外のことなんて気にならなくなった。感じるのは古泉だけでいいから。
抵抗しなくなると同時に、俺を拘束していたものは外され、自由になった。部屋の外には出れないが、出る気もないから大して気にはならない。
「悪い子には、お仕置きですね」
「うわ…っ…ひ、ぁああっ」
俯せにベットに押し倒され、後ろを解すこともなくいきなり突っ込まれた。幾度となく古泉を呑み込んでいるそこは、少々の痛みはあったものの、簡単に古泉を受け入れる。
ああして誰かにちょっかいをかけた後、古泉は乱暴に俺を抱く。我ながら被虐的だとは思うが、それがたまらなくいいのだ。
「ぃ、あ、ぁ、あ…っ…ん、ぁあっ」
「っ…気持ち良く感じていたら…お仕置きに、なりませんね…っ、」
サイドボードからリボンを取り出すと、古泉は俺の根元を縛る。
「ゃ、ぁあっ…と、って…っ」
「お仕置きだと、言ったでしょう?」
根元を縛られていて解放されない熱が体中に広がる。それを知っていて、容赦なく古泉は前立腺を突く。
首筋に噛み付かれ、乳首に爪を立てられる。
「ぃぁっ…ゃ、い、たい…っ」
「痛いの、好きでしょう?」
肯定も否定も出来ない。決して好きではないが、感じているのは確かなのだから。
ずん、と奥を突かれると、気持ちよすぎて痛い。快楽に慣れてしまった体はもう、熱を吐き出したくて悲鳴を上げている。生理的な涙がぽろぽろと溢れる。
「ゃ、も、いき、たい…っ」
「駄目です。それとも、二度としないって誓いますか…?」
「っ…や、だっ…!」
俺には古泉しかいないのに、古泉が外に出るから、俺以外の人間の所に行くから。
いつか古泉が俺を捨ててしまうのではないかと、思うことがある。だからこうして嫉妬されることで、執着を見せてくれることで、俺は安心できる。
「強情な、人…ですね…っ」
これならまだ拘束されていた時の方が、安心出来ていたのかも知れない。いつか古泉は俺が外に出ることを許すのだろうか。それが怖い。もう、必要ないと言われそうで。
だったらいっそのこと、このままがいい。このままでいい。昔みたいに抵抗してみようか。そうしたらまた繋いでくれるのだろうか、この部屋に、古泉に。
「ずっと俺の、傍に…ぁ、んんっ…いて…っ」
浅ましいほどの執着心が反転したのはいつからだろうか。それとも最初から、俺の方が古泉を求めていたのか。
俺の言葉に何かを感じたのか、古泉は動きを止めると俺を仰向けにする。俺が縋り付くように腕を首に回すと、優しくキスをされた。
「ずっと、傍に居ます。あなたがいれば他に何も要りません」
だからもう少しだけ、我慢して下さい。そう言って笑う古泉の顔に嘘はなかった。もう少し。その言葉が何を意味するのかはしらないけれど、俺は素直に頷いた。
根元を戒めていたリボンが外され、律動が再開されると、あとはもう快楽の海に溺れていくしかなかった。
ゆるやかに壊れ逝く世界の狭間で終焉のない夢を見る。