目を開けて一番最初に見たのは、見知らぬ天井だった。
どうやら俺はベットに寝かされているらしい事が解る。どうしたんだったか…確か学校に行く途中で、とそこまで思い出して、強烈な吐き気に襲われた。
まずい、と思いながらも俺はその場で嘔吐していた。まだありありと脳裏にあの光景が甦ってくる。
しばらく吐き続けて、胃の中のものを全て吐き出すと、やっと止まった。けれどまだ気持ち悪さはぐるぐるとしていた。とにかく、汚したシーツをどうにかしなければ。そう思って体を動かすと、がしゃん、と足を引っ張られた。
「…なんだよ、これ…」
呆然として俺は呟く。俺の足には鎖が付けられていた。ある程度の長さがあり、部屋の中だけは自由に動ける。
しかし一体、何なんだ。誰がどういうつもりでこんなことを。
考えても仕方ないだろうことは、部屋に誰もいないから解っていたし、それに気分が悪くて仕方なかったからな。汚したシーツを近場に風呂に放り込み、水に付けた後、俺は再びベットに突っ伏した。
反抗するなり逃げ出すなりするにしろ、体力は必要だからな。
再び目を覚ましたとき、ぼんやりと俺を見つめる影があった。まだ簿焼ける視界の中、そいつが俺に問う。
「水、飲めますか」
瞬間、これは古泉の声だと悟る。俺は頷くが、吐いた所為か動く気がしない。とりあえず頷いてみせると、古泉が俺に近づいて来た。
段々と覚醒する頭で少しずつ考える。どうして古泉が、此処に? 次の瞬間には唇に何かが触れていた。同時に、水が口の中に移される。何か錠剤のような物まで転がり込んで来た。
それを嚥下しつつ、段々と頭が冷静になる。なんでまた、こいつは俺にこんなことしてるんだ。
古泉の顔が遠ざかるのを確認して、俺はどうにか起き上がった。
「…なんで、お前、ここに」
「何故って、」
当然でしょう、と言わんばかりの笑みで、古泉は言う。
「此処が僕とあなたの部屋だからですよ」
言われた事の意味が一瞬理解出来なかった。どういう意味なんだ。
「あなたは一生、ここで僕と生きて行くんですよ…ああ、心配なさらなくてもいいですよ、世間的にはあなたは死んだ事になっていますから」
「し、んだ?」
俺が? そういえば、最後に見た俺と車の間に入り込んだ男は俺の背丈によく似た、北高の制服を着た人間だった。
「今日からここと、そして僕が君の世界の全てになるんです」
古泉はうっとりと、そしてとても嬉しそうに笑った。見たことも無いような笑顔で。
「そん、なこと…っ」
許される訳がない。そう言おうとしたところで、体の異変に気がついた。熱い。
体温的に熱いのではない。体の芯が、熱を持っているようだった。興奮状態、とでも言うべきだろうか。
「効いてきたみたいですね。ああ、ご安心を。機関特別製ですから、害はありませんよ」
「何、を…飲ませた…」
あの錠剤か。
「鎮痛剤がわりの催淫剤ですよ、痛いと覚えさせるより、気持ちのいい物だと覚えさせた方が、都合が良いでしょう?」
何がどう、都合がいいんだ。そう聞き返そうとした口は、再び古泉に塞がれていた。
開きっぱなしだった唇から、舌が侵入し、口内を蹂躙する。熱い、苦しい。何よりも――――
「っ」
気持ち良い、と思ってしまいそうな自分を制して、俺は古泉の舌を思い切り噛んでやった。
唇も一緒に切ったんだろう、古泉は唇の血を拭い取りながら不敵に笑う。
「ふふ、このくらい抵抗のある方が、こちらとしても嬉しいですよ。…しつけ甲斐がありますから」
その凄惨な笑みに、ぞわりとした。古泉は俺の頭を掴むと再び口付けて来た。もう一回噛んでやろうか、そう思ったとき。
「っ…」
逆に古泉が俺の舌を引っ張り出し、噛んで来た。甘噛みと言えばいいのだろうか、弄ぶような強さで。時々じんわりと鉄の味が口に広がる。古泉の血だろう。
「ふ…ん、は…っ」
俺は古泉に言い様に遊ばれているしかなく、行き場を失った手が虚しく中を掻く。そうしていると、するり、と古泉の手が下半身に伸びた。
それで今更自分の格好に気がつく。北高の制服は着ておらず、古泉のものだろうか、大きめのシャツを着ているだけだったのだ。当然下着も身に着けては居なかった。無防備すぎるほどに無防備だ。
俺のそこに触れた古泉が、くすりと笑った。
「キスだけでこんなに感じたんですか?…いやらしい人ですね」
「っ…!!」
羞恥で顔が真っ赤に染まるのが解った。くそ、こんなのはコイツを喜ばせてるだけじゃないか!
俺の首筋やら鎖骨やらを口で愛撫しつつ、古泉はゆるゆると下も手淫で愛撫する。せめてもの意地と、漏れそうになる声を唇を噛み締め必死で耐える。
「あなたのそういう強情なとこ…好きですよ」
「ふぐ…っ」
古泉は何を思ったのか俺の口に指を突っ込んできた。変な声が出そうになって、俺は遠慮なく古泉の指を噛んだ。じわりとまた、血の味が口に広がる。
袋をふにふにと揉まれ、俺は更に古泉の指に歯を立てた。どうなろうとしったこっちゃない。古泉の顔に少し苦痛が浮かぶのを見て、ざまあみろ、なんて思うくらいで。
「っ、…このままでは噛み切られてしまいそうですね。もしちぎれたら、そのままあなたに咀嚼させるのも悪くないですが」
そう言って、古泉は俺の胸に顔を寄せると、乳首に歯を立てた。
「ぃ、ぁ…っ」
思わず痛さで呻く。滲んだ血を古泉が舐めとると、ぞわりとした。悪寒じゃなく、別の何かで。
俺の口が緩んだ隙に古泉は指を引き抜いた。どうするのかと思っていると、それは思いもよらぬ所へ触れた。
「や、めろっ、よせ…うあっ」
身をよじって逃れようとするものの、遅かった。古泉の指は本来排泄場所であるべき所へ潜り込んでいた。そのまま、遠慮なく奥へと指が進んで行く。異物感と吐き気に耐えられず、体が力む。すると前を扱かれ、力が抜ければ、また指が蠢く。その繰り返しだ。
「ひっ…ぁ、う…く、ぁあ…っ」
「狭いですね。一本でこれだけだと、大変なんじゃないですか?」
「ぃ、ぁ、あ…っ、ぬ、け…っ!」
「おや、いいんですか?十分に解さないと傷付くのはあなたのここですよ」
サァ、と血の気が引く音がした気がする。やめろ、なんで、そんな。
正気なのだろうか。いや、多分とっくに狂っている。どういうつもりで、古泉は、こんな。
「い、やだ…っ!!」
「っ!」
少しばかり冷静になった俺は古泉から逃れようと腕を振り回す。しかしそれさえ古泉の腕に掴まれ、がちゃりと近くにあった拘束具を嵌められる。それでも直暴れ様としていたとき、古泉の指が変な所に当たったのか、俺は声を上げていた。
「ひぁうっ」
自分では聞いた事もない声だった。ホントに自分の声かと疑いたくなるほどに。
古泉はそれを確認するように何度もそこを指で押しつぶす。気が狂いそうなほどの感覚に、俺の体から力が抜けていく。
「ひ、ぁ、あ、あ…っ」
射精する事なくイったような感覚だけが続いて、喘ぐ。内壁を広げるように指を動かされて、いつの間にか指が増えていた事に気がついた。
「…そろそろ、いいでしょう」
「っあ」
ずる、と指が引き抜かれ、体をうつぶせにされる。見えなくても、何をされるのか本能的に悟っていた。熱い塊が後ろに押し付けられ、強引とも言えるほどの強さで俺の体を侵略する。
「ぃ、あ、あっ…!」
「っ…キツイ、ですね」
苦しさで呼吸も出来ずに喘いでいると、古泉の手が前に伸びてきて俺のそれを扱く。いくらか力が緩んだタイミングで、さらに奥へと埋まって行く。
どうやら奥まで入りきったのか、動きが止まる。圧迫感に呻いていると、休む暇なく古泉が動き始めた。
「ひ、ぁ、ああっ…!」
「っ…感じてるんですか…?随分と、淫乱なんですね」
否定したかった。けれど確かに苦痛ではない何かが、体を満たして行く。それに気付いているらしい古泉は、遠慮なく俺を責め立てる。
もう声を押さえようとしても押さえる事が出来なかった。それどころか、理性すら飛びかけているような気がする。
頭の中に入ってくるのは、古泉から与えられる快楽。ただそれだけだった。
「…愛しています」
ああ、堕ちる。
その言葉が聞こえたとき、そう思った。