「ハルヒ、この書類の資料は!?」
「こっち!」
「サンキュ!…幕僚総長!この書類お願いします!」
「はい。ではこちらを情報参謀、お願いします」
「(こくん)」
「あのぅ、あたしは何をしたら…」
「みくるちゃんはお茶でも汲んでて!」
会議場の机の上には死屍累々とでも表現したくなるほど書類が散乱していた。何故かと言われれば、今まで師団長に居た人間の職務怠慢のせいである。
「あーもう!なんでこんななるまでほっといてあんのよ!バカじゃないの前任者!」
「文句を言ったって始まらんだろう。…お、ありがとうございます」
熱々のお茶を入れた朝比奈さんは、俺たちに湯のみを手渡すとにこりと笑った。本人曰く「書類とか、そう言うのって苦手で…」だそうだ。この人もいまいちわからん人だ。
しかし今時データでなく書類というのも古い。古過ぎる。理由を聞いた所、
「データでは改竄される恐れもある。まだ書類ならば安全」
と長門が進言したからだ。しかしその口ぶりからすると、別に改竄されてもそれが誰がやったのか、そして改竄されたデータがどれなのかとか解りそうな感じではあった。が、深くは突っ込まない事にした。
「えーっとこれ、どこまで終わったんだ…?」
「弾薬の確認とそのための費用の照らし合わせは済みましたよ。どうも着服していたようなので、上に報告しなければなりませんね。…もっとも、だからこそこの第一師団の席が空いたのかもしれませんが」
と、古泉が書類を片付けながら肩を竦めてみせた。あれ、もう終わったのか。
「ええ、長門さんが殆ど片付けて下さいましたよ。あとはこれからの予算について再び書類をまとめなければならないでしょうね」
「そうね。全体的な予算についてはいっぱい貰ったのよ」
ほう、どれくらいなんだ?
「具体的にはこれくらい」
とハルヒは俺に一枚の紙を投げて寄越した。何気なくそれを見て絶句した。おいおい、いくら第一師団でもこれは出し過ぎだろう。というか、この国にこんな資金あったのか…!?
「それに、必要な経費があれば請求して全然構わないんですって。太っ腹よね!」
俺はそんなに軍の内部に詳しい訳ではないが、それでもこれはどこかおかしい、と思った。何かが引っかかる。
「そうですか。ではまずは今の所補充すべき弾薬と、整備のための物資などの計算から始めましょうか」
しかしその引っかかったものを俺が掴む前に、古泉が話を進めてしまった。仕方なく俺は会議に集中する事にした。
act.3 Asinus in tegulis.
4〜5時間ほど会議をしたあと、俺は伸びをしながら中庭に立っていた。ここは戦艦の中だというのに、それこそ古い資料で見た地球のように緑がある。海、というのはないようだが。
会議、と言いつつ結局くだらない話を続けていたような気がする。一応やることはやったが、だらだらとしていたせいでここまで会議が延びたのは明らかだろう。やれやれ、ちょっと体でも動かしてくるか。
戦闘のシュミレーションルームに入ると、そこには思いがけない先客が居た。古泉だ。
立体映像を見せるためのゴーグルを付け、インカムで機械に指示を出していた。
『Lv.2へ移行、負荷20%』
そういえばコイツは全体的に優秀な奴だったよな、なんてそれを見ながら考える。古泉の動きはそれなりに慣れた動きをしていて、あまり実践向きではないものの、頭を動かすのが専門のような役職についてる人物にしては、これだけ肉弾戦を行えるのも珍しいのではないだろうか。
同じようにゴーグルを付けると、古泉と相対する数人の幻影の姿が見えた。その数4、5人。
ふ、と悪戯心がよぎって、俺はヴァーチャルルームに入る。一人、二人と倒される中、俺は古泉の前へと立ち古泉の拳を受け止めた。一瞬だけ、古泉の顔色が変わる。
しかしすぐに奴は足払いをかけてきた。俺はわざと足払いをくらい、その流れのまま古泉の足を崩す。が、古泉もそう簡単にはやられない。上手く地面に着地すると、トン、と地面を蹴って俺に蹴りを繰り出す。それを軽く避けるとすかさず拳が飛んで来た。だがこれくらいの流れ、読めてないわけがない。
「自慢じゃないが、俺はこっちの成績はトップだったんだよ…っと」
「ええ、知ってますよっ…!」
基礎の体力が違うのか、少々古泉は息を上げていた。まあ、そろそろいいか。
「っ!?」
俺は拳を避けつつ古泉の懐に潜り込むと、そのまま古泉の襟を掴んで投げ飛ばした。予想していなかったらしく、古泉はやすやすと地面に背中をついた。立ち上がろうとした所で、首に向かって手刀。勿論寸止めだがな。
「チェックメイト、だな」
「…完敗のようです。僕もまだまだだな…」
「そうは言うがお前も中々だと思うぞ」
何しろ俺を相手にしつつ、きっかり残りの幻影も倒してたんだからな。
「謙遜もほどほどにしないと嫌味になるぞ」
「そうですね…何にせよ、あなたと組み手が出来て嬉しい限りですよ」
「ま、実戦じゃこうは行かないだろうがな。それに肉弾戦が役に立つ事もないだろ」
「ええ、それが一番いいんですけどね」
そう言った時の古泉の顔は心無しか曇っていた。なんだ?しかしそれに気がつく前に古泉はすぐにあの胡散臭い笑みに戻っていた。
「射撃でならこうは行きませんよ?」
「言うじゃねえか、なら勝負するか?」
「それもいいですね。じゃあひとつ、条件を出していいですか?」
「なんだ?」
手加減…というのではないだろうな。相当自信があるようだし。
俺が色々考えていると、古泉は驚くべき条件を出して来た。少なくとも、俺は相当驚いた。
「涼宮さんたちの前でも、今と同じように僕と会話して下さいませんか?」
「は?」
ああ、そう言えば気がついたら上司だと言うのにいらんちょっかいをかけに行った上不遜な態度を取ってしまっていたような気がする。同期だからいまいち敬おうって言う気にならないんだよな。
「別にそんなんでいいなら勝たなくてもやってやるぞ、部下とかの前じゃないならな」
あの口調のまま喋るのは、俺にとったら肩が凝るしな。常時敬語のこいつじゃないんだから。
まあそれでも大して知り合いでもないのだから、上司だし一応敬語を、と思っていたんだが、こいつからそう言い出してくれたのははっきり言って有り難い。
「そうですか?でも、やっぱり僕が勝ったらでいいですよ」
と、古泉は不敵な笑みを浮かべてみせた。
「なんでだ?」
俺の質問にも古泉は笑ってみせ、
「やっぱり、僕が勝つからですよ」
ちなみに結果は本当に古泉の勝ちになった。その差は弾一発分で、ムカついたのでもっと銃の腕を磨いておこうと思う。
頭で勝てないのに、戦闘でも勝てないなんて悔し過ぎるからな。
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