「どういう事なんだ一体!説明しろ!」

NSKの勝利を祝う連中を後目に、俺は古泉たちとパーティを抜けだしていた。









act.6 Fallaces sunt rerum species.










「ええ、解っています。考えれば早くあなたには説明しておくべきだったでしょうね、何しろ開戦が決まれば、こういう事態が引き起こされるのは予想がついたはずですから」
「…あなたは、何が知りたいの」

問いかけるように、無感動ない瞳を長門が俺に向けた。長年見て来たからだろうか、そんなこいつの瞳に揺らぎを感じたのは。

「…まずは、お前達の事を聞かせてくれ。一体、なんなのか」

あの古泉の力。そして、長門の機械人形だという事実。それに、朝比奈さんのあの予知のような台詞は一体。

「わたしは、この宇宙を統括する情報生命体である情報統合思念体によって生み出された接続用機械人形(ヒューマノイドインターフェイス)。なので正確に言えば人間に作られた機械人形とは違う」
「機械、とは言いますが機械人形は人間となんら変わりない体をしているんですよ、殆どね。ですから体温もありますし、傷がつけば血も流れます。ナノマシンと人体の融合で出来ていますから、アンドロイド―――長門さんの場合は女性ですから、ガイノイドですね―――の方が近いかもしれませんが。…あのとき、彼女の体に無数のヒビのような光が走っていたを見ていますね?」
「ああ…」

俺は頷いた。あんな風な現象は人間で起こりえるはずがないのだ。だからこそ、俺は長門が機械人形だと気付いたのだが。

「あれは彼女の体を覆うナノマシンが稼働していたからです」
「人間と同じように操作するよりも、自分に繋いで操作した方が効率が良い」

じゃあ、長門は機械というより、人間と言うより、生体兵器に近いって言うんだろうか。

「あなたの考えは正しいと思う。わたしの体は人間と同じ物質で構成されている」
「そして彼女には、人間と同じく感情がある。本来機械にはないはずの感情がね」
「…どういうことだ?」

確かに長門は人間にしては無感動だが、機械にしてはあまりにも揺らぎがある、と思う。
だからこそ、こいつが嬉しいんだろうな、とか、哀しいんだろうな、とか、多少なりとも感じる事が出来るのだから。

「詳しい話は、僕たち全員の話をしてからしますよ」
「次はあたしです。…信じてもらえないかも知れないけど、あたしはこの時代の人間ではありません」
「え?」
「あたしは、この時代の歪みを正すため、もっと未来から来ました」

確かに、俄には信じられない話である。

「あたしのいるべき時代は、この時代の未来です。けれど、誰かが時限に干渉して、未来と、そして過去を歪めました。後少し時間が経てば、その時限干渉が起きるはずです。それが起こってしまえば…」
「…起こって、しまえば?」
「…多分、世界は崩壊の一途をたどることになります、少なくとも、この国はそうなってしまう」

そう言った朝比奈さんの顔は辛そうに歪んでいた。もしかしたら、改変された未来で、彼女は崩壊していく世界を見ていたのだろうか。
信じてあげたい。しかし、信じろと言われて信じられるはずもない話だ。スケールがでか過ぎる。なんで、そんな話を。

「最後は僕です。…あなたもご覧になったでしょう、あの青い巨人と沢山の蟲を」

俺は頷いた。バカのようにでかい、青い光の巨人。薄暗い宇宙空間に、星よりもなお強い光を放っていた。そして、歪みのような空間から現れた、あの異形の蟲。

「あれは便宜上、青い巨人が《神人》、と呼ばれています。蟲のほうは見た目どおりなのでそのままですけどね。あれは全て、僕たちの世界と一枚隔てた閉鎖された空間に存在しています。しかしその壁が、ある力によって歪み、もろくなってしまう。そうなると奴らはこちらの空間にいとも容易く侵入し、世界を食い荒らしてしまいます」
「それが、あの歪みなのか?」
「ええ。朝比奈さんが予知したようにあの歪みの出現と消失を宣言したでしょう?あれは彼女自体があの歪みと密接な関係があるからです。まさに予知している、と言った所ですが」
「あたし自身、あの中をくぐり抜けてこちらの世界へ来たようなものですから…」

なるほど。一応は納得がいった。だからといって、証拠もない以上鵜呑みには出来ないのだが。

「…あの赤い球は?」

生身のまま宇宙空間に飛び出した古泉。あれは一体。

「《神人》や《蟲》に対抗するために僕たちに授けられた力、それがあれです。体内エネルギーを体外に放出することでバリアを張っている、と理解して頂ければ幸いですね。便宜上、超能力、とでも呼んでおきましょう。…そして、あの歪みを産んだ人物も、僕に力を授けた人物も、機械人形(ヒューマノイド)に変化をもたらした人物も、世界を崩壊させてしまう原因になる人物も、全て同じ人物なのですよ」

誰なんだ、そいつは。

「あなたの、とても身近に存在している」
「…その人は、事態の中心にいながら、何も知りません。彼女は、そうでなければならないんです」

長門と朝比奈さんの言葉に、俺は思い当たる人間がいた。俺の近くに居る。何も知らない。彼女。でも、まさか。

「その人物の名は、涼宮ハルヒ。あなたもよく、ご存知の方ですよ」















「《神人》の出現が始まったのは三年前です」

飲み過ぎた、なんて言い訳をハルヒにして、俺たちは談話室に移動していた。パーティをやっているためか、誰もいない。今は俺と古泉の二人だ。
長門は「わたしではうまく言語化出来ない」と言い、朝比奈さんは「あたしはまだ、言えないこと…
《禁則事項》が多過ぎるんです。それに、古泉くんの方がうまく説明できるはずだから」、と二人でパーティの方へ戻って言った。まあ、俺と古泉の二人が抜けて、朝比奈さんと長門まで抜けたらハルヒが怒るに決まってるからな。
自販機のまずいアイスコーヒーを飲みつつ、俺は静かに古泉の話を聞いていた。

「誰もが慌てましたよ。全世界がね。それはどこにでも出現し、無差別に辺りを破壊していくのですから。…幸いだったのは、同時に僕たち《機関》の人間―――つまり能力者が目覚めたことですね。能力者がいなければ、世界は既に奴らに滅ぼされていたことでしょう」

古泉の話によると、能力者たちは10人ほどのグループで各国に散らばり、《神人》討伐をしているらしい。

「そして、我々は力に目覚めると同時に、この力を与えた人物を知りました。…驚きましたよ、まだ小さな少女が、これほどの事態を引き起こした犯人だとはね」
「…お前も同い年だろうが」
「これは失礼。そうでしたね」

古泉は苦笑した。

「我々《機関》は彼女…涼宮さんを《神》と定義しています。僕としては神と呼ばれるような存在が事態の中心にいるはずないと思うので、それは否定したいところなんですけどね」
「…そもそも、なんでハルヒにそんな力が?」

そういえばそれを説明していませんでした、と古泉はカフェオレをテーブルに置くと俺に向き直った。

「彼女には、自分の願望を実現する能力があるんです」
「…願望を、実現する?」

じゃあ、あの《神人》の出現は、全てハルヒが願ったことだっていうのかよ。

「正確には、彼女はそこまで望んだわけではないでしょう。長門さん曰く、『涼宮ハルヒが願ったのは「面白い事」。科学で何もかも証明出来る世界がつまらないと感じていた。だから科学で証明出来ない現象が起きれば良いと思った』、だそうです」
「…その結果が、あの《神人》の出現なのか?」
「ええ。ただそれだけではありません。…機械人形は、人類が生み出した科学の結晶、と言われているでしょう?」
「ああ」
「確かに器を生み出したのは人間です。しかし、実際のところそれを統括しているのは長門さんの所属する情報統合思念体なんですよ。機械人形自体、数が少ないというのはご存知でしょう?」

勿論知っている。実物なんて近くにいるはずないと思っていたから、「人間と殆ど変わらない」というキャッチフレーズなんて嘘臭いと思っていたし、そのために費用がかかると言う話も、本気にはしていなかったのだが。

「確かに費用はかかります。何せ半分クローンを作り出してるようなものですから。しかし実際の所、ほぼ人間と同じ機械人形を創るのに情報統合思念体の力が必要なため、数が少ないんですよ。人間が作り出せるのはせいぜいロボットまでですね」
「…感情が、うんぬん、っていうのは」
「普通の機械人形は所詮機械ですから、プログラムされた以外の感情を用いることは出来ません。情報統合思念体も、情報生命体ではあれど、人間の感情を正しく表現する事は出来ない。しかし、長門さんはそれが出来てしまう。…もちろん情報体ですからね、その原因が何なのか、素早く突き止めた。そしてその原因は、涼宮さんだった。だから長門さんは今、我々の傍にいる」

だがしかし、感情があるのだとすれば、どうして長門はあれほど無感動で無表情なんだ?

「もちろんそれは疑問に思われるでしょうね。…彼女は制限されているのですよ、情報統合思念体に。…おっと、僕を怒らないで下さいね。僕も詳しくは知らないのです。ただ、何らかの理由で彼女の感情と能力が制限されている、と言う事以外は」
「…あの"リミッター"解除、っていうのは」
「一時的な能力の解放ですね。普段から機械人形が情報を操作することが出来てしまえば、それこそ世界なんて簡単に転覆してしまいますから。そうならないための、"リミッター"です。《機関》と情報統合思念体は協力関係にありますからね、先ほどのような事態が起こった時のために、"リミッター"解除の権限が僕に渡されているのです。もちろん、有事に限りますが」

古泉の話を聞きながら、俺はふつふつと沸いてくる怒りを止められなかった。誰に対して?誰でもない。こんなの、誰に怒ったって仕方ないだろう!
だが、情報統合思念体は殴れる物なら殴ってやりたかった。なんで長門にそんな制限をつける必要があったんだよ。同じように笑って、同じように生きられたら、機械人形でも、同じ場所で生きられたはずだろう!
あいつは、ずっと一人で、本を読んでたんだ。俺があいつに言った言葉より、自分に声をかけたのが信じられない、というような瞳をしていたのを、俺はよく覚えている。

「…朝比奈さんは、未来から来た少女ですが、こちらの世界では実質過去の人間、とされているんです」
「何故だ」
「彼女が冷凍睡眠(コールド・スリープ)でこちらの世界に流れついたからです。後から聞いた話によれば、世界の崩壊が迫っていて、無事に移動するにはその方法しかなかったためだそうですが。よく考えてみれば過去に冷凍睡眠のための技術などあるわけないんですけどね」
「…朝比奈さんのいた場所は、壊れかけてるのか」
「ええ。直接涼宮さんのせいではない、ということだそうですが。きっかけであることは確かです。彼女が未来人だというのは、僕や、一部の機関の人間しか知りません。…彼女が他に知らせないで下さいと、願ったためですが」
「…そんなこと、俺に話してよかったのか?」
「ええ。あなたは口が堅いでしょうし、彼女もあなたには普通に言ったじゃありませんか、未来人なんです。と」

たしかにそうだ。だが俺には腑に落ちない事がある。

「なんで、そんな話を俺にするんだ」

古泉は、少しだけ哀しそうに笑った。それが何故かは、俺にはわからなかった。

「あなたが、涼宮さんの鍵であり、世界を守るための鍵だからですよ」


























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