「僕たちの見解では、彼女が願ったのは『感情を持った機械』、『超能力と呼ばれる力を持った人間』、未来、もしくは過去から来た人間』、です。
そしてその通りに今、僕たちは此処に居て、示し合わせたように彼女の元へ集まっている。
…ですが、そこにイレギュラーが存在している。
それが、あなたです。
あなたは普通の人間です。僕も、機関も、そして長門さんも朝比奈さんも、それは保証します。
なのにあなたは彼女の傍に居る。彼女が願ったものとは、なんら関係のない人だと言うのに。
だからこそ、あなたは彼女の鍵であり、世界の鍵なのです」
act.7 Nemo fortunam jure accusat.
今度こそ自室に帰った俺は、虚脱感に襲われてベットへ倒れ込んだ。
衝撃の事実が多すぎた。だからと言って何かが変わる訳じゃないのはわかる。それでも。
どんな反応をすればいいのか、わからなかった。
全ての原因はハルヒ。そう聞いて、何を思ったかと言われれば、正直ふざけるなとも思ったさ。勝手な願いで、世界を破壊してしまえる少女。だけど俺はハルヒを知ってる。怒りをぶつけて何になるという話ではあるし、言っちゃ悪いが俺はその所為で死ぬような目にあったわけでも、大切な人をなくした訳でもないのだ。
それに、ハルヒは自覚して使ってる訳じゃない。ハルヒを責めたってどうしようもない問題なのだ。
それでも、どんな反応をすればいいのか解らない。なんでも無いような顔をするのは、正直言って少し無理だと思った。
まあ、それも全て杞憂に終わったのだが。
「新しく人が配属されてくる?」
「そ。何かこの前の戦闘ぶりを評価して、人員を増やしてもっと戦いやすいように強化しよう、って言うんですって。まあ別に構わないんだけどね、有希は良いって言ったし」
「長門の所の配属なのか?」
「うん、名前は『朝倉涼子』。情報参謀補佐になるんですって」
長門の補佐、ねえ。
「ふぅん、で、いつくるんだ?」
「もう来ると思うわよ、時間はかからないって言ってたし」
実際その通りで、朝倉涼子はすぐに現れた。
「初めまして、本日付けで情報参謀補佐に任命されました、朝倉涼子です」
朝倉は薄水色の制服を身に着けていた。階級は…同じ少佐か。
「あなたが、うわさのキョンくん?よろしくね。…あ、階級が同じなんだから、敬語じゃなくてもいいよね?」
「あ、ああ…」
にこりと笑って朝倉は俺に握手を求めた。ハルヒは何やら忙しいとの事で、俺が朝倉の案内を任されたのだ。
「それより、うわさって」
「だってあなた、涼宮さんのお気に入りなんだもの。あの人、有名でしょう?」
「まあ、それはそうなんだが…」
朝倉の場合は、なんとなく、それだけじゃないような気がした。
「情報参謀、入りますよ」
コンコン、と情報部の扉をノックして、中に入る。返事がないのはいつものことだからな。入っちゃならない時は、長門は鍵をかけてるしな。
ちなみに長門に対して敬語なのは、長門が中佐だからである。流石に朝倉の前で長門と普通に会話する訳にもいくまい。
「新入りです、今日からあなたの補佐になります」
「朝倉涼子です、どうぞよろしく」
「…そう」
長門はちらりとだけ視線を寄越して、それからすぐに手元の本やら書類やらに目を戻した。普通に考えたら階級は下とはいえ失礼な行為なのだが、朝倉は気にしないらしい。わたしの席、ここでいいのかしら。なんて言いながらまだ何も置かれてない席についた。
「それじゃあ、俺はここまで。…失礼しました」
長門に敬語を使うのも中々違和感がある。そんな風に思いながら部屋から出る。さて、何をするか。
「…そういえば、まだCPU艦隊の連中に話を聞いてなかったな、行くか」
敗北した連中とはいえ、別に牢にいれられているわけでも、捕虜扱いになっているわけでもない。理由はまあ、奴らが大人しいからである。負けたからには特に反抗する気もないらしい。
「覚えてない?」
「ああ、そうだ」
CPU艦隊の艦長(ニックネームなのか部長と呼ばれている)は頷いた。宣戦布告するからには、それなりの理由があるはずだろう。
「しかし、本当なんだ。我々は君たちに恨みがあるわけでもない。けれどなぜか戦わなければ、という気になり、そのままの勢いで宣戦布告していた。…命を助けてくれたことは感謝しているよ」
「別に俺たちもお前らが憎い訳じゃないからな。…まあ正直、あの戦法には参ったが」
俺がそう言って褒めると、連中は複雑そうな顔をした。どうした?
「いや…我々が弄った覚えはないのだが、いつのまにか戦艦が高性能になっていたんだ。だからあんな戦法が出来るくらい、我々には最初から地形や君たちの居場所が見えていた。―――結局、負けてしまったがね」
「いつのまにか?」
「ああ。前日はなんともなかったはずなんだが、いきなりレーダーが高性能になってね。戦艦の速度もかなり上がってたんだよ。だからますます行ける、と思っていたんだが…あんな化物がでてくるとはね」
「ま、何にせよ体は無事で良かったと思っておくべきだろうな。…サンキュ、ちょっとは有益な情報も手に入った」
「こちらこそ、君の所の情報参謀に色々教えてもらったからね。お礼を言うべきはこちらだよ」
そうなのか、と少なからず俺は驚いた。長門が積極的に人とコミュニケーションを取ろうとするとは。良い傾向なんだろうな。
だが、確かに引っかかる。急に。そんなことが出来るのは、人間には居ないように思う。そして、積極的に交流を取って情報を引き出した長門。まさか、この戦争自体が仕組まれた物で、それに機械人形(ヒューマノイド)が関わってるっていうのか?
いや、考えていたって仕方がない。所詮俺に解る事ではないのだ。
「…古泉に聞いてみるか」
一応、幕僚総長だからな。古泉に聞くのが一番早いだろう。
コンコン、と一応ノックをする。どうやら鍵はかけてないらしい。不用心だな。
「古泉幕僚総長、入りますよ」
返事はない。無言の肯定と受け取って扉に触れる。シュン、と空気が抜けたような音を残しつつ、扉が開く。
そして俺は一歩中に入ろうとして、固まった。ちらばる書類、書類、書類。言葉も出ない。
ぐるりと一望してみても、本棚とクローゼットとソファしか見えない。机とその周辺は紙で埋もれている。というか、ソファも埋もれかけているが。まるでそこら中をひっくり返したみたいだ。
驚く俺を他所に、ソファで半ば紙に埋もれつつ仮眠しているらしい部屋の主を発見した。書類の海をかき分けつつ進む。後ろで扉が閉まる音がした。よし。
「何やってんだこのバカ!!」
「っ!?」
ぐい、と耳を引っ張って怒鳴ると、古泉はびくりとして起き上がった。
「え、あ、あれ?」
その様子を見る限りまだ夢から覚めてないみたいだな、よぉーし。
「え、え!?な、なんであなたがここに…?!」
「寝てるんだったら鍵締めろバカ。重要書類も混ざってるんだろうが!誰かが入って来たらどうするつもりだったんだ」
「あ、あれ?もしかしてまたロックするの忘れてたんですか、僕」
また、ってお前な…。
「あの、それでどうしてあなたが…?」
「聞きたい事と相談したいことがあったんだよ。けど、その前に」
「その前に?」
俺は散らばった書類を指差した。
「これ、片付けるぞ」
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